Smiley face

 「あれ、珍しいですね。アンコの牌(はい)でしたが……」

 実況の小宮悠(はるか)プロが驚いた様子でつぶやいた。

 リーチをかけていたサクラナイツ・渋川難波が、アンコになっていた1ピンをツモってきた場面。渋川はカンせずにツモ切り、放銃したのだ。

 解説の河野直也プロは「意図的にカンしなかったように見えた。後で聞きたい」と続けた。

対局中の渋川難波(C)ABEMA

 試合後のABEMAのインタビュー。渋川は「リーチ後にカンできる危険牌を持ってきても、切った方が良いときは平然と切る。カンを忘れていたわけではない」と狙いを語った。自らの選択を「渋川スペシャル」と名付けたことは、話題も呼んだ。

 元Mリーガーの朝倉康心プロは「Mトーナメントは1試合目でトップを取ることが何よりも重要。1試合目の結果で生まれた2試合目の立ち回りの変化の面白さや勝ち上がるための思考が詰まった選択だった。難しい判断だったと思うが、確かに僕も切るかもしれない」と振り返る。

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 場面は、日本プロ麻雀(マージャン)連盟選出の西川淳、フェニックス・魚谷侑未、サクラナイツ・渋川、最高位戦日本プロ麻雀協会選出の水巻渉による6月14日のMトーナメント予選1stステージH卓第2試合、東2局16巡目。

写真・図版
6月14日Mトーナメント予選1stステージH卓第2試合、東2局16巡目の渋川難波から見た様子(C)ABEMA

 予選は、2試合の結果を総合して上位2人が次のステージに進む。1試合目は渋川がトップで、西川、魚谷、水巻と続く結果だった。

 2試合目の東2局。水巻が1、4ピン待ちの先制リーチを仕掛け、渋川がこれを3、6ピン待ちのリーチで追いかけた。ツモればリーチ、ツモ、ドラ、赤と打点も高い。

 「1試合目にトップを取った選手は、次の試合でラスを引かなければほとんど通過できる。2試合目はまだ序盤ですが、それなりの打点のアガリをあと1回できれば勝ち上がりがほぼ決まる状況なので、決めるアガリを狙いに行った」と朝倉プロはみる。

 めくり合いは続き、16巡目。渋川は1ピンをツモる。手牌の右端には、アンコの1ピン。解説の河野プロはとっさに「カンできる」と反応した。

 だが、「カン」の声が会場に響くことはなかった。渋川は最初から決めていたように、リーチ後の素早いツモ切りを繰り返した。

 朝倉プロは、この選択の背景…

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