歌壇の最高峰とされる第59回迢空(ちょうくう)賞(角川文化振興財団主催)の贈呈式が6月末に開かれ、歌集「三本のやまぼふし」(砂子屋書房)で受賞した花山多佳子さん(77)が自作に触れながら、歌歴半世紀となる現在の心境を語った。
受賞スピーチに先立ち、選考委員の馬場あき子さん(97)は選評で〈会ひたしと来つれどはな子この場所にまだ生きをれば耐へがたきかも〉という一首を紹介。戦後タイから来日し、2016年に69歳で死亡したゾウのはな子を詠んだ歌だ。「タイの柔らかい土を踏みながら生きていたゾウが、コンクリートのゾウ舎で生きてきた。まだ生きていたならうれしいじゃないかと思うけれど、年老いたゾウを見ていると耐え難い心情が出てくる。こうした詠(うた)い方は独自の才能」と評した。一般的な視線から少し外れたところを捉え、ある種の批評性を帯びているところが独特だという。
「私がしようと思っていた話を馬場さんが全部お取りになり、ちょっと途方にくれている」。花山さんはこう切り出し、笑いを誘った。自身が6歳の時、1歳年上のはな子が上野動物園から井の頭自然文化園に移ってきた。自宅から近かったので、頻繁に会いに行っていたという。「死ぬ1年くらい前、また会いに行った。私は子どもから老人になっております。ゾウはそこにいたということですよね、ずっと」と花山さん。〈コンクリートだけを踏みつつ六十九年いちど人間を踏みしことあり〉という別の一首にも触れながら、「コンクリートだけを踏んでいた、その時間がすごく恐ろしいような感じがして、何とも言えなかった」と歌の背景を伝えた。
花山さんは歌人・玉城徹の長…