企業の経営課題をくみ取り、適切な助言をして戦略を立案する。そんな役割を担うコンサルティング業界が、学生の就職先として人気を集めている。今や就活市場にとどまらず、社会全体にコンサル業界特有の思考様式や振る舞いが浸透しつつあると、「東大生はなぜコンサルを目指すのか」(集英社新書)の著者で批評家のレジーさんは言う。コンサル的な価値観が広がることの功罪とは。 (聞き手・平賀拓史)

今や「安全」な就職先

――著書でも触れていますが、就活サイト「ONE CAREER」が毎年発表する人気企業ランキングでは、2027年春に卒業予定の東大・京大の学生ではトップ10のうち七つをコンサル・シンクタンク企業が占めたそうですね

 かつては高学歴層の人気就職先といえばキャリア官僚やメガバンクなどでした。それがこの10年ほどでコンサルにとって代わられています。コンサルは彼らにとって、つぶしのきくキャリアを歩むための第一歩としてみなされるようになっています。

大学生らを対象に東京ビッグサイトで開かれた合同企業説明会=2023年3月

 コンサルでしばらく修業すれば、その後のキャリア選択にあたっての自由度が高まると考えている。変化の波に取り残されないための安全な選択肢として、コンサルが選ばれているわけです。

――私(33)が学生だった2010年代前半は、コンサルは将来起業を目指すような野心的な人たちが志望する業種という印象でした。今では安全な選択肢なのですか

 コンサル業界は組織の上下構造や人事評価が非常に分かりやすく設定されていて、役職の階級や、それに応じた年収の差がはっきりしている。若くして年収1千万円に届く例も多く、成功のイメージを早くから描きやすいのです。

 それに対して、いわゆる「JTC」(「日本の伝統的な企業」をやゆする略語)の縦割り社会は風通しが悪く、地位が高いのかどうかよく分からない役職がたくさん設けられて、上下関係が複雑化しているうえに給料もなかなか上がらないというイメージが広く浸透しています。そんなJTCに身をおいて疲弊するより、目に見えるはっきりとした成果を得て「ハイクラス人材」として報われたい、という漠然としたニーズにコンサル業界が応えていると言えます。この傾向は今後もしばらくは続くのではないでしょうか。

大切なのは「ファクトベース」「フレームワーク」

――書店に行けば、コンサルや元コンサルによるハウツー本が平積みになっています。就活生や転職志望者にとどまらない、コンサル的なものへの広い需要を感じます

 不安定な時代に確かなスキルを身につけるべしというムードや、JTC的な動きの遅さ、あいまいさに対する忌避感を背景に、スピード感ある解決策を求める空気が社会で強まっている。そこにコンサル的な思考、文化を至上視する言説がうまくはまっていると思います。

――コンサル的な思考の特徴とはなんでしょうか

 良くも悪くも、「ファクトベース」や「フレームワーク」(枠組み)を重視することです。

 コンサル業界では、新入社員であっても、クライアント(顧客)である大手企業の幹部や管理職を相手に事業への問題提起や提案をしなければいけません。そこで武器になるのが、客観的な数字などの「ファクト」や、物事を的確に整理する「フレームワーク」です。そういった問題解決の方法、ファクトをもとにフレームワークを駆使して重要な課題と最適な解決策を見つけ出すことが、コンサルに限らず現代の理想のビジネスパーソン像になっています。

 こうした思考方法は、仕事でも日常でも役立つ場面は多いと思います。従来はあいまいだったり、属人的な要素で決められていたりしたものを、客観的な指標によって大局的に判断できるわけですから。

 一方で、コンサル思考で成果を上げることではなく、コンサル的に振る舞うこと自体が至上視されていく傾向も昨今はあり、危うさも感じます。ファクトやロジックを絶対視し、それにはまらないものを論理によって「殴る」振る舞いです。これをよしとする価値観がビジネスの場だけでなく日常でも支配的になると、コミュニケーションから人間性が奪われていくことにもつながるのではないでしょうか。

「民間ではありえない」

――「論破」の風潮ですね。昨年の都知事選で2位の得票を集めた石丸伸二・元広島県安芸高田市長が思い浮かびました

 石丸氏は市長時代、市議や記…

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