実が大きくならないままの佐藤錦=2025年6月2日午前11時22分、福島市、岡本進撮影

 果物王国・福島のシーズン幕開けとなるサクランボの収穫が始まった。だが、この3年は主力品種の「佐藤錦」が不作で、特に今年は、全体では例年の4割減まで落ち込むだろうとJAも覚悟している。地球温暖化も原因とみられている。

 傷がつかないように木の上には雨よけネットをかけ、日光がまんべんなく当たるように木の下には反射シートを敷き詰める。手間をかけて育てた果実の収穫を喜ぶ時期なのに、福島市で果樹農家を営む70代の男性は顔をしかめた。

 サクランボ畑を案内してもらうと、佐藤錦の木に、たわわになった実はなかった。大半は小指の爪ほどの小ささで、黒ずんで落下した実が反射シートに散乱していた。

 サクランボの収穫量は、隣の山形県が全国の7割ほどを占めるが、福島県も一大産地だ。この農家のもとにも毎年、佐藤錦の収穫を待ち望んだ県内外の客から連日、FAXや電話で注文が入る。だが今年は、新規の客からの注文は断った。「常連客にも、希望した量の半分で我慢してもらう」と農家の男性は言った。

 福島市を含む12市町村からなるJAふくしま未来は毎年、旧自治体ごとに作柄を調べている。それによると、木の枝の1カ所に、どれだけの実がまとまってついているかを示す「着果数」が、例年だと2・0個なのに今年は平均1・3個と少なかった。地域ごとにバラツキがあるものの、不作は一昨年から始まり、昨年も3~4割減だったが、さらに今年は悪い状況となっている。

 山形県でも今年は、サクランボの作柄が5段階評価で最も低い「少ない」と発表している。2006年以来、2回目という。

 福島県内では、個人客向けのサクランボ狩りの受け入れを取りやめる観光農園が出始めているほか、サクランボをふるさと納税の返礼品にしている福島市は、量を確保できないとして5月23日に申し込みを打ち切った。

 多くのサクランボの品種は「自家不和合性」であるため、実をならせるには、ほかの品種の花と交配しなければならない。佐藤錦も、そうだ。蜂が花の蜜や花粉を集めて飛び回ることで、周りの品種の花粉が佐藤錦につけられる。例年、ソメイヨシノの開花が過ぎた4月下旬ごろに巣箱が置かれる。

 だが、温暖化によって桜だけではなく、サクランボの開花時期もここ最近は4月半ばごろに早まりつつある。この時期は低気圧が発達しやすいため、天候が変わりやすい。今年は授粉作業のときに強風が吹く日が続き、それが痛手になった。JAふくしま未来の園芸課の担当者は「蜂が風で飛ばされて授粉しづらかったうえ、今年は気温の低さも加わった。蜂は15度を超えないと活発に飛ばないため、動きが鈍ったようだ」と分析している。

 市内の別の果樹農家は、佐藤錦の収穫が例年の7割減と見込んでいる。「ほかの品種は大丈夫だったが、佐藤錦は繊細なので、どうしても環境の変化を受けやすい。来年以降がどうなるかが気がかりだ」

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