現現在も販売されているシャープの不織布マスク=シャープ提供

 2023年12月の夜、居酒屋に14人が集まった。

 新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類に移行し、街に人通りも戻ってきたころ。

 「落ち着いたら飲みに行こう」

 そう言いながら延び延びになっていた飲み会が、ついに開催された。

 集まったのは、三重県多気町にある「シャープディスプレイテクノロジー」の工場で働くメンバー。

 この3年半、作ってきたのはディスプレーではなく「マスク」だ。

 政府からの要請を受けたのをきっかけに、シャープとして国産の不織布マスクを作ってきたのだ。

 14人のうち5人は県外の関連会社からの応援で、まもなく戻ることが決まっている。

 メンバーを束ねる統括班長の川上貴大さん(39)は、5人にあるものをプレゼントした。

 100円ショップで買った、おもちゃの金メダルだ。

 「今まで助けていただいて、本当にありがとうございました」

 1人ずつ首にかけて、感謝の言葉を伝えると、こう返された。

 「俺らは戻るけどマスクの生産を続けてくれよ。任せたぞ」

 川上さんは「任されました。お互い頑張りましょう!」と応じた。

 今振り返ってみると、すごいことだと思う。

 「多気の工場で生産します。最初の納品は12万枚で、納期は1カ月後です」

 上長からそう言われたのが20年2月28日。

 液晶一筋16年だったのに、突然マスクを作ることになり、機械が稼働したのは納期の1週間前。

 不良品と闘いながら全数検査し、手作業で袋詰めや箱詰めをして、何とか間に合わせた。

 そして、5年経った今でも生産・販売を続けているのだから。

納期1週間前に稼働、不良品だらけ

 「シャープがマスクを作るらしい」

 そんなうわさを川上さんが耳にしたのは、20年の2月中旬だった。

 工場には、液晶パネルなどの…

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