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土屋俊幸・東京農工大名誉教授

 気候変動と表裏をなす世界の危機とされる生物多様性の損失。私たちの暮らしに密接に関わる問題で、ここ数年そのリスクへの認識が高まってきた。10月には、2年に1度の生物多様性条約の締約国会議(COP16)がコロンビアで開かれる。6月に日本自然保護協会の新理事長に就任した土屋俊幸さん(林政学)に、いま私たちが目指すべき自然保護とは何かを聞いた。

 生物多様性とは地球上の様々な生き物の個性やそのつながりのことで、社会を支える資源やサービスの源だ。だが、開発や気候変動の影響などによって損失の危機にある。世界は一昨年、減少の一途をたどる生物多様性を回復に転じさせる「ネイチャーポジティブ」の実現を目指し、2030年までに達成すべき23の国際目標をつくった。

 今年4月には、ネイチャーポジティブを後押しするための関連法が成立した。環境省だけでなく、国土交通省、農林水産省も一体となって生物多様性の回復を目指す。「自然に配慮した政策は、欧米諸国が1970年代からすで率先して進めていた。一方、日本はなかなかそうした意識にシフトしてこなかった。ここにきて、日本も大きく変わろうとしている。日本の自然保護への姿勢を長年見てきた身として良い意味で驚いています」

2030年までに地球の30%を保全地域に

 国際目標で最も注目されるのは、陸域や淡水域、海域についてそれぞれの30%以上を適切に保全する「30by30(サーティーバイサーティー)」と呼ばれる目標。日本の国土面積は約3780万ヘクタールなので、陸域でいえば約1130万ヘクタールの保全が求められる。すでに国立公園の指定などでおよそ20%に相当する約770万ヘクタールが保護地域とされている。

 そこで、国立公園以外に民有…

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