知床世界自然遺産地域科学委員会(中村太士委員長)が5日、札幌市で開かれ、ニカリウス地区(羅臼町)で計画されている携帯電話基地局について、通信事業者が計画を説明した。今春からオジロワシや植生の調査を始めるが、委員からは適切な調査と情報共有を求める声が上がった。
ニカリウスの建設予定地は、知床岬に近い番屋跡地で、電源として太陽光パネル設備4基(4社分)を建設する。1基は高さ10・7メートル、幅17メートル(太陽光パネル80枚)で、積雪などを考慮し、垂直に設置する。4基は海に向かってほぼ横一列に並ぶため、ビルの3階並みの高さの「壁」が約70メートルにわたってできることになる。
関係者によると、カバーエリアはウニやコンブ漁の船外機船が主に航行するカブト岩~ペキンノ鼻の沖合5~10キロを想定。漁業者の人命確保に加え、観光旅客船事業者、先端部利用のトレッカーの事故やけがの際の連絡機能の強化の観点から、不特定多数の人の利用に対応するため、通信事業4社の設備が必要という。
通信事業者はこの日、科学委に建設予定地周辺の環境影響調査の計画案を示した。顕著で普遍的な価値への影響(OUV)を評価するのが目的で、調査項目を5項目に分類した。
植生調査(5~8月)は建設予定地と資材搬入区域が対象で現存の植生図を作製。オジロワシは繁殖期(4~8月)に建設予定地から半径2キロを調査範囲とし、海上と陸上から月1回調査する。昨年12月の調査では営巣木は確認されなかったが、上空を飛ぶオジロワシやオオワシは確認されている。ほかに渡り鳥や野生動物、昆虫類、景観についても調査するという。
知床岬の基地局が「凍結」になった問題などを踏まえ、委員からは環境省に対し、「工事の許可後に科学委で議題にするのでは遅すぎる」「新たな展開があった場合はその都度、科学委に示してほしい」「事業の進捗(しんちょく)状況を科学委と共有する仕組みは作れないか」などといった意見が出された。
一方、知床の携帯電話基地局整備がOUVに悪影響を及ぼす可能性があると、自然保護団体が昨年6月、ユネスコの世界遺産センターとIUCNに通知書を提出した件で、環境省は基地局整備の経緯や現状、科学委の助言内容などを文書で同センターに回答(同8月30日付)したが、現段階でさらなる照会は来ていないと報告。照会があった場合は「すみやかに報告する」とした。