日本の公立小学校の日常を記録したドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(山崎エマ監督、12月13日公開)は、先行公開されたフィンランドで注目作品となった。「教育大国」とされた国に、新たな視点をもたらしたという日本型教育の特徴とはなにか。その課題は――。東京都内で12月1日、映画を入り口に小学校教育のあり方について語り合うトークイベントが開かれた。
フィンランドの大学を卒業し教員経験もあるエルッキ・ラッシラ神戸大学助教は、映画で描かれた日本の小学校教育について「コミュニティー観や助け合いの心、一緒にやって感情的につないでいくところなど、教育の社会的な役割が伝わってきた」と語った。フィンランドで映画が注目された背景として、同国がPISA(OECDの学習到達度調査)で1位でなくなり、「個性にフォーカスしすぎ」「学校が緩すぎる」「先生たちが保護者や生徒に尊重されていない」といった教育の問題が明らかになり始めていることを挙げた。
また、教師の視点からも「感情的な面で、フィンランドではもっとフラットでドライな感じで付き合うけれど、日本の教育のように生徒と近い関係を結びたい、気持ちを動かしたい、という点において魅力的に見えるのではないか」との見方を示した。
フィンランドに移住して31年、教育や福祉に関わるヒルトゥネン久美子さんは「フィンランドは個人主義で個の違いを重視する、日本は集団力が美しい印象がある」とした上で、フィンランドでも近年はグローバル化で余裕がなくなり、一人一人の子どもの声を十分に聞いたり論議したりする場面がなくなってきた、と指摘。「『あなたはあなたらしくていい、自分で決めていい』と言っても、決められずに悩んでしまう。経済状況や社会の不安定さもあって、子どもたちにまとまりや落ち着きがなくなっている」とみる。だからこそ今回の映画について「子どもたちをどう導いたらいいか、集団力を付けるためにどう大人が関わっていけばいいか、関心をもって見られているのでは」と語った。
「特別活動」に詳しく、映画でも教師たちにその功罪を説く様子が映された国学院大学の杉田洋教授は、日本型教育が世界で注目されている理由として「アラブの春があったエジプト、モンゴル、インドネシアなど、特に民主化を図った国など、国民としてまとまりにくい国は日本をモデルにしたいということがあると思う」。その一方で、小中学校で34万人を超える不登校や集団性の強さなどを課題として挙げ、「学級会は合意形成する場所。しかし取り扱いによっては、日本の忖度(そんたく)や空気を読むことを教えることになり、真反対のこともできてしまう。だからこそ、我々がもう1回この意味を考えていく必要があるのではないか」と訴えた。
映画にも登場した塚戸小学校教師の榎本誠太さんは「皆がまとまったところが美しい、と感じてもらえたところもある。ただ、まとめるのか、子どもたちが自らまとまりたいと思ってまとまっていくのか、大きく違う」と言及した。
さらに、教師の働き方改革が叫ばれるなかで「どういう子育てをしたいのか、なぜ先生になったのか。タスクに追われて忙しさで失っているものを考え直したり話し合ったりできる時間があるといい。子どもが自分の良さを見つけられる環境を、先生たちがもっと真剣に考えられるような場を作っていけたら」と語った。