自宅を買った弁護士が自らの住宅ローン控除(減税)を巡り、税務申告を任せた税理士を訴える。そんな訴訟の判決で、申告のミスによって控除を受けられなくなったとして、約230万円の損害賠償が税理士側に命じられました。プロでも誤りやすい税務申告の「落とし穴」。一体、何があったのでしょうか。
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住宅ローン控除は、融資を組んで自宅を買った人が受けられる減税措置。年末のローン残高の0.7%が最大13年間、所得税や住民税から差し引かれる。
「居住用特例」との併用が問題に
今回問題となったのが、自宅を売ったときに売却益を最大3千万円まで引ける「居住用特例」と、住宅ローン控除の併用だ。両者は近接した期間だと適用されないため、自宅を買い替えるタイミングによっては一緒に使えない。
判決によると、原告の弁護士は2019年に自宅マンションを購入。それに先立ち旧宅を売った。その売却時に居住用特例の適用を受けていて、新居購入でも住宅ローン控除適用を望んでいた。
被告の税理士は弁護士から、年10万円で確定申告業務を引き受けており、旧宅売却の申告に関与。新居の住宅ローン控除でも、併用できるかどうかについて問い合わせを受けた。
そこで、税理士が弁護士に提案したのが「修正申告」。いったん税務署に出した申告書の内容を、後から修正する手続きだ。
修正申告、認められず
旧宅の売却益は、買い主へ引き渡した年の所得として申告していた。ただ、それに先立ち売買契約を結んだ年(前年分)の所得として申告する方法も選べた。前年分に変えれば、併用の要件を満たせるとして修正申告を提案。別途の報酬3万円で引き受けた。
その後、税務署から税理士へ思わぬ知らせが届く。修正は認められないという。修正申告は一定の場合(当初の申告で計算ミスをして納めるべき税額が足りないときなど)に認められる。その要件を満たしていなかった。
すでにマンションを買っていた弁護士は、損害の賠償を求めて税理士を提訴。税理士はその後亡くなり、遺族の夫と子が被告として訴訟を引き継いだ。裁判所は22年5月、原告の望む申告業務のために必要な調査や確認をしなかったとして、控除を受けられなかった損害額約230万円の支払いを税理士側(夫と子)に命じた。
3万円の報酬で230万円賠償、遺族が被告に…
3万円の報酬で引き受けた仕事で約230万円の支払い、本人死亡後に遺族への賠償命令。そんな異例の判決内容は、今年に入って税理士界で話題になった。
マルイシ税理士法人の藤井幹久税理士は「住宅ローン控除は経済情勢などに合わせて細かな変更が繰り返され、税理士でも引っかかる『落とし穴』がある。近年の改正でより複雑になった」と話す。
税務申告には、プロでも間違えやすい落とし穴がたくさんある。
東京国税局は職員向けに、「所得税・消費税誤りやすい事例集」(2024年12月版)を出している。税理士の研修などにも使われる資料。住宅ローン控除と居住用特例の併用のほか、たとえば、こんな事例が紹介されている。
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