記者コラム「多事奏論」 くらし科学医療部(大阪)記者・長沢美津子
これが現代の寓話(ぐうわ)なら、コロンと丸い貝は、何を教えようとしているのか。語り手はホンビノスガイ。東京湾に侵入者としてやってくるとみるみる繁殖し、外来種もおいしいねと支持を集めたところで、よもやの急減に至った。
千葉県で発見されたのが1998年、知名度はずいぶん上がったと思う。北米が原産の二枚貝で、ニューイングランド名物クラムチャウダーの材料だ。日本には大型船が航行を安定させるのに積むバラスト水に交じって運ばれ、東京湾に定着したらしい。湾の奥、三番瀬でアサリ漁に見知らぬ貝が交じるのを、漁師が市場に出したことで広まっていった。
わたしも築地市場の場内にあった居酒屋で、「白ハマグリ」と呼ばれていたのを食べた覚えがある。「ちょっと硬いけれど味はいい」「安くて和食にも洋食の店にも売りやすい」というのが、市場の人たちの評価だった。
前提に、長年の柱だったアサリの漁獲が厳しさを増したことがある。陸の人間生活の影響を受けやすい三番瀬で、アサリが生きづらい場所が増え、そこでもホンビノスガイは育った。貝専門の漁師さんからは、当初の驚きを「海底におろした網かごが満杯になる経験は初めて。アサリではありえなかった」と聞いた。
ホンビノスガイを収入源にし…