アナザーノート 伊藤裕香子編集委員

 巨大倉庫のように広く天井も高い展示場には区画ができて、種目ごとの「競技場」になっていた。11月23日朝、「全国アビリンピック」の会場。到着してすぐ、自動車部品大手のデンソー(愛知県刈谷市)で働く小倉怜さん(31)の姿を捜す。「電子機器組立(くみたて)」種目の7年前の金メダリストだ。

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 後輩選手の背中を手のひらで「ぽんっ」と、気合を込めて押す後ろ姿が見えた。メダル種目の指導者になって迎える初めての全国大会の競技開始は、もうまもなく。あとは自身と同じ聴覚に障害のある3人の選手の奮闘を見守るだけだ。

 アビリンピックは「障害者技能競技大会」の愛称で、今年は障害者手帳を持つ15歳以上の398人が「パソコン組立」「喫茶サービス」など25種目に挑んだ。会場は愛知県の中部国際空港の目の前。今年も技能五輪全国大会が一緒に開かれ、大勢の人が行き交っている。

 小倉さんは昼休憩をはさむ4時間、開始と同時に押したストップウォッチを握りしめ、区画の外を行ったり来たり。3メートル以上も離れた選手の手元を繰り返しのぞき込んでいた。「電子機器組立」は、人の接近を感知して機器を制御する回路を時間内に組み立てる競技。ミリ単位の部品やはんだ付けを正確に扱い、美しく仕上げる技を競う。

アビリンピック全国大会の「電子機器組立」に出場する選手を見守るデンソーの小倉怜さん(右)=11月23日、愛知県常滑市

「チーム力」を高めて

 昨年は製造の職場を離れて1カ月、全国大会のコーチ役を任されたが、年明けに技能人財養成部に異動。聴覚障害者として初めて、専任の指導者の道を歩み始めた。

 県大会で好成績だった3選手はお盆あけから、職場を離れての集中訓練が始まっていた。9月半ば、高棚製作所(愛知県安城市)の実習棟で、選手が組み立てた回路を横からのぞき込む小倉さんと出会った。

 ときにはんだ付けなどを実演…

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