一力遼名人(28)=棋聖・天元・本因坊と合わせ四冠=に芝野虎丸十段(25)が挑戦している第50期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第3局は12日、三重県鳥羽市の旅館「戸田家」で2日目が打ち継がれる。

 名人が開幕2連勝し、シリーズの流れを左右する大一番。名人の黒番で始まり、名人戦七番勝負1日目の最長手数を更新した前局に続くスピード進行だった。名人に錯覚があったか、相手の大石殺しに失敗。挑戦者が大きくリードを奪ったなかで、117手目を名人が封じて打ち掛けとなった。

 消費時間は名人4時間22分、挑戦者3時間8分。対局は12日午前9時に再開され、夜までに終局する見込み。朝日新聞のデジタル版では、七番勝負の模様をタイムラインで徹底詳報する。

【囲碁ライブ】一力遼名人ー芝野虎丸十段【第50期囲碁名人戦第3局2日目】

  • 【1日目詳報】一力名人、錯覚か 大石捕獲に失敗 芝野挑戦者が大幅リード

10:05

囲碁将棋TV2日目スタート

 朝日新聞社のYouTubeチャンネル「囲碁将棋TV」で、佐田篤史七段による2日目の解説が始まった。きょう最初のゲストは立会人で、封じ手予想を当てた山田規三生九段。優勢な芝野挑戦者について、守るのではなく「決めにいきそうな打ち方にみえます」と分析した。

2日目のユーチューブ解説をする立会人の山田規三生九段(左)と佐田篤史七段=2025年9月12日午前10時6分、三重県鳥羽市

「平成四天王」の息子

 囲碁名人戦は、インターネット囲碁サロン「パンダネット」(https://www.pandanet.co.jp/)による棋譜中継もされている。

 第3局で入力作業にあたっているのが、羽根和哉さん。立命館大学理工学部の1年生で、昨年の全国高校囲碁選手権大会で優勝した。今年の朝日アマチュア囲碁名人戦全国大会にも、滋賀県代表として出場した。

名人戦第3局で、パンダネットの棋譜中継を担当する羽根和哉さん=2025年9月11日午後3時49分、三重県鳥羽市の戸田家、照井琢見撮影

 父は「平成四天王」と称された羽根直樹九段である。祖父、母、姉もプロ棋士という棋士一家の中で育った和哉さんは「物心ついたら囲碁はそこにあった。みんなが外で遊ぶのと同じように、碁に触れていた」と話す。

 対局場となった三重県鳥羽市に近い、志摩市は父の出身地でもある。「ひいおばあちゃんが志摩にいて、よく遊びに行きました」

 みんなで志摩スペイン村に出かけるのが、家族の恒例行事だそう。

 一時期、プロ棋士を目指したこともあった。でも今は「囲碁以上に心ひかれたのがロボットでした。囲碁を捨ててはいないけど、今はロボットについて学びたい」

 物を運ぶだけでなく整理整頓したり、スポーツをしたり。その挙動が人間に近づきつつある姿を知り、「技術の最先端に触れたいと思いました」。

 囲碁で培ったのは「集中力」。ロボット研究サークル、アコースティックギターサークル、囲碁部を掛け持ちしながら、ロボット開発者を志している。

対局会場である「戸田家」で保管されている、タイトル戦をここで戦った棋士たちの揮毫(きごう)。羽根直樹九段のものもある=2025年9月10日午後4時58分、三重県鳥羽市、宮本茂頼撮影

9:05

名人の封じ手はふつうに

 名人の封じ手▲は立会人の山田規三生九段予想の一手。ほかに黒Aを封じ手にして絶対の白Bを強制しひと晩かけて次の一手を練る、過激に黒Cとツケる、などの候補手が上がっていたが、▲はもっともふつうの手だ。

 盤上は右上の黒の惨状が痛々しい。白の大石を取りかけにいって失敗し、ナカデをめざした黒石数個が白に吸収されてしまっている。

〈途中図〉先番・一力名人(117手)

 ここから名人が追い上げられるか、このまま挑戦者が逃げ切るか。最近は挑戦者の逆転力が話題になっているが、名人の逆転力も天下一品。トッププロを相手に、この道しかないと思わせる組み立てでミスを誘い、大差の碁をひっくり返してきた。

 とはいえ挑戦者の勝ち碁のまとめ方にも定評がある。勝負の2日目が始まった。

9:00

封じ手、左下相手陣を狭める

 午前8時52分、芝野挑戦者が入室。下座に座り、碁盤を手ぬぐいで拭き清める。

 2分後、一力名人が入った。第1、2局の2日目と同じ、黒いシャツ。上座で目を閉じ、じっと待つ。

 9時、両者が1日目の封じ手の局面まで並べ直し、立会人の山田九段が封じ手を開封した。一力名人が封じていた117手目は「2の十三」のスベリ。左下の相手陣を狭め、自陣を広げる手だ。

封じ手を示す立会人の山田規三生九段(中央)。右は一力遼名人、左は挑戦者の芝野虎丸十段=2025年9月12日午前9時5分、三重県鳥羽市の旅館「戸田家」、菊池康全撮影

 両者が改めて一礼し、対局が再開した。

立会人の山田規三生九段が封じ手を読み上げ、一力遼名人が117手目を打って対局が再開された。左は挑戦者の芝野虎丸十段=2025年9月12日午前9時5分、三重県鳥羽市の旅館「戸田家」、菊池康全撮影

1日目総括

名人、錯覚か

 午後5時30分、名人が117手目を封じて1日目を終えた。名人に錯覚があったか、挑戦者の大石を取りかけにいったがしくじり、形勢を損じた。

 名人の2連勝で迎えた本局の開始早々、挑戦者は右上でおよそ40目の陣地を名人に与える大胆な作戦に出た。代償に得た白壁をバックに、碁盤の下半分の白模様に勝負を託したが、名人は右下黒23の打ち込みから巧みにさばきリードを奪った。

〈途中図〉先番・一力名人(116手まで)93(77)

 挑戦者は上辺白54から一転して黒模様を荒らしに向かう。白70と敵陣で犠打を放つことなく白石すべてを引き連れて居直る強手に、名人は大石を丸取りにいった。

 黒77から85、87と相手…

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