Smiley face
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2022年のグッドデザイン賞に選ばれた「ととのうパンツ」と中川ケイジさん=2025年2月25日午後4時16分、水戸市、古庄暢撮影
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 「#実はノーパンです」。思わずクスッと、笑いが込み上げるロゴが目をひく。

 その名も「ととのうパンツ」。これはズボンであって、下着ではない。直接身に着けられるのが特徴で、日本伝統のふんどしの構造を参考にした、特殊な裏地を施している。

 就寝時に身体が感じる肌着のストレスを緩和し、眠りの質を高める商品として、2022年度のグッドデザイン賞(日本デザイン振興会主催)にも選ばれた。これまで約1万着を売り上げている。

 中川ケイジさん(48)はその開発者で、ナイトウェアの販売を手がける有限会社「プラスチャーミング」(本社・東京)を経営している。全国にふんどしの良さをPRする「日本ふんどし協会」会長も務めている。

 「商品を通して、笑顔になったり、誰かとのコミュニケーションのきっかけになったり。機能以上に価値のあるものを作り出すことがモットーです」と語る。

 製造は、東日本大震災から復興した福島県田村市の縫製会社などに委託している。

 会社に従業員はいないため、妻の実家がある縁で15年に移住した水戸市を開発拠点に、東京・新宿の伊勢丹など、全国の百貨店の店頭に自ら立ち、売り歩くことも少なくない。

 起業のきっかけは、34歳の時に患った、うつ病の闘病経験にある。

 兵庫県芦屋市出身で、大学卒業後は美容師として働いたり、親族が経営する会社で営業職を担当したりしていた。就職氷河期の世代。「大学を出ていても、仕事を選ぶこと自体が難しかった」と振り返る。

 ただ5年勤めた営業職は肌に合わず、11年春にうつ病を患った。医師から半年間の療養を言い渡されたが、睡眠障害の症状がひどく、精神的にも追い詰められていった。

 そんな時、以前に営業先で知り合った人から「はいてみなよ」と、プレゼントされたのが「越中ふんどし」だった。

 それまでふんどしを身に着けたことはなく、「男性が祭りに着る露出の多い格好」というイメージだった。

 ただ着てみると、越中ふんどしは前垂れが長く、殿部まで隠すことができて、恥ずかしさもなかった。それ以上に、従来の下着よりも身体への圧迫感がなく、久しぶりにリラックスして寝ることができた。

 「心が軽くなって、前向きに生きようという気持ちになれた」と同時に、ふんどしを「寝具として生かせないか。今度こそ、やりたいことをやってみよう」。そう考えるようになった。

 11年12月、会社を立ち上げるとともに、彩りや肌触りにこだわった、男性でも女性でも使えるおしゃれなふんどし「しゃれふん」のブランドを立ち上げ、開発を始めた。21年には、「ととのうパンツ」の販売も始めた。

 ふんどしへの抵抗感を感じる人は「まだまだ多い」と話すが、しゃれふんの購入者の8割ほどは女性だという。

 今後は、国内の大学などと連携し、さらに睡眠の質を高めるための研究にも取り組む予定だ。「より良い眠りを体験できる。そんな商品をこれからも作っていきたい」と話す。

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