今春始まる第63回大阪国際フェスティバル2025。大阪の四つのオーケストラが集う5月の「4オケ」公演では、大阪・関西万博の開催を記念し、世界の名曲とともに現代日本の楽曲が演奏される。4月に日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任し、「4オケ」で指揮する久石譲さんに、現代の音楽への思いを聞いた。
もっと深い景色を見る
――作曲家として広く知られていますが、近年は国内外のオーケストラで指揮者としても、精力的に活動されています。なぜでしょうか。
作曲家として面白いと思った曲は、目の前で音を鳴らしてオーケストラに指導しながら演奏していくと、ただ聴いていたときよりもっと深い景色を見られます。この名曲のなにがすばらしいのか、なぜ生き残ったのか。譜面を見ているだけじゃ分からないことがつぶさに分かる。それは、作曲にも生きてくるんです。
――「4オケ」では、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」と、久石さんが2023年に作曲した「Adagio for 2 Harps and Strings」を演奏します。
「火の鳥」は、ロシア・バレエ団が1910年にパリで初演したバレエのための作品なので、ロシア・フランスになります。他の楽団の選曲もみて、プログラム全体のまとまりがすごく良くなるんじゃないかな、と選びました。
1945年版に決めたのは、これまで何度も1919年版を演奏したので、やるならチャレンジしてみよう、と。45年版はラストが全部スタッカートになっていて、そこがなかなか難しい。だけど、やりがいがあるかなと思います。
「Adagio for 2 Harps and Strings」は二つのハープとストリングス(弦楽器)の曲です。マーラーの交響曲第5番と同時に演奏するために作曲したもので、第4楽章「アダージェット」を意識して、遅いテンポの曲を書きたかった。「火の鳥」は激しい曲ですし、編成が違っているのも良いと思いました。
新しい曲を未来へ
――現代音楽が日本で取り上げられる機会は多くはありません。
古典作品の演奏だけだったら、クラシック音楽は「古典芸能」になってしまう。特に日本のオーケストラは同じようなプログラムばかりで、演奏する楽曲の偏りが激しいと感じます。
海外では、新しい曲がどんどん演奏されています。僕もたくさん作曲を引き受けていますが、複数のオーケストラが共同でお金を出し合って作曲家に委嘱するほど積極的です。
過去から来たものがつながり、現代でも新しい曲ができる。その中から、未来に残るものが生まれる。この循環をさせる努力をしていないのは、日本だけです。
――久石さん自身、演奏会では現代音楽を積極的に取り上げています。
日本の状況を変えたいんです。4月に就任する日本センチュリー交響楽団の音楽監督を引き受けた条件のひとつは、現代曲を演奏していくということでした。その方針をどんどん貫いていくつもりでいます。
時代に即した曲を
――そもそもクラシック音楽自体に難しいイメージを持っている人は多いと思います。特にSNSなどで短時間のコンテンツに慣れている若い人にとって、ハードルが高いと感じます。
確かにクラシック音楽は長いし、1、2回聴いたくらいだと面白みは分からないんですよね。それが当然だと思う。
以前、僕の指揮するクラシックの演奏会に来た人に「まるでロックを聴いているみたいでした」と言われました。僕はリズム主体で演奏するので聴きやすく、喜ばれたのだと思います。もしかしたらそれが共通項になって、若い人にも「面白いじゃん」「オケってこんな迫力あるんだ」と思ってもらえるかもしれない。きっかけを少しでも提示できたらいいなと感じます。
現代の音楽にしても、不協和音の難しい楽曲ということではなく、オケは観客を意識して、時代に即した曲をやってほしいと思います。
――日本センチュリー交響楽団とは、音楽監督に就任して初めてのコンサートになります。
楽団とは、首席客演指揮者として2021年から一緒にやってきました。お互いに慣れていいコンビネーションができてきた今の状態で、より強いアンサンブルを聴かせられればいいかなと思っています。
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「大阪4オケ」演奏曲の魅力、作曲家・萩森英明さんに聞く
「4オケ」では、関西フィルハーモニー管弦楽団が「東京夜想曲」を演奏する。作曲した萩森英明さん(1981年生まれ)に、今回演奏される日本の現代音楽の魅力を語ってもらった。
◆大阪フィルハーモニー交響楽団(指揮・尾高忠明)
♪武満徹 「波の盆」組曲(日本)
♪ブリテン 歌劇「ピーター・グライムズ」より「4つの海の間奏曲」(英国)
◆関西フィルハーモニー管弦楽団(指揮・鈴木優人)
♪萩森英明 「東京夜想曲」(日本)
♪バーンスタイン 「ウェスト・サイド・ストーリー」より「シンフォニック・ダンス」(米国)
◆大阪交響楽団(指揮・山下一史)
♪外山雄三 「管弦楽のためのラプソディ」(日本)
♪R.シュトラウス 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」(ドイツ)
◆日本センチュリー交響楽団(指揮・久石譲)
♪久石譲 「Adagio for 2 Harps and Strings」(日本)
♪ストラヴィンスキー バレエ組曲「火の鳥」(1945年版)(ロシア)
「東京夜想曲」は、生まれ育った東京の夜景をイメージした曲です。子どもの頃、親戚が連れて行ってくれた夜のドライブ中に首都高速から見た景色が好きで。音楽で表現できたらと思いました。
冒頭の、チェレスタやハープ、フルートで演奏する短い音は、ビルの光を表しています。最初は静かに、街を遠くから俯瞰(ふかん)しているような感じです。
そこから曲が進むにつれて、車は街中に入り込んでいき、最後はまた遠ざかる。ヒューと落ちてくるような弦楽器の小さな音は、ドライブ中の車が行き交う様子をイメージしました。
指揮は、大学の先輩でもある鈴木優人さん。2023年が初演で、2回目の演奏になりますが、曲のどんな新しい側面が見えるのか期待しています。
今回は他にも、現代の日本で作られた曲が演奏されます。大阪フィルハーモニー交響楽団が披露する「波の盆」は、ハワイを舞台にした同名のテレビドラマのテーマ曲として、1983年に武満徹さんが作った楽曲です。
武満さんは映画やテレビの劇音楽を多く残しました。前衛的なものも含めてさまざまなスタイルの曲がありますが、「波の盆」は非常に聞きやすく、素朴で美しいメロディーです。現代音楽に親しんでこなかった人が、最初に触れるものとしてもふさわしいのではないでしょうか。
かといって、わかりやすさだけではありません。後期の武満作品に使われているような、不協和音的な音の使い方も随所に出てきます。武満さんのいろんな面が聞ける曲ではないかなと思います。
大阪交響楽団が演奏する、外山雄三さん作曲の「管弦楽のためのラプソディ」は、お祭りのような雰囲気です。1960年にあったNHK交響楽団の海外演奏旅行にあわせて作った曲で、盛り上がります。
「あんたがたどこさ」など知っているメロディーがたくさん出てきて、血湧き肉躍る。かと思えば、中盤の「信濃追分」は美しい。指揮者でもあった外山先生の、「お客さんの目の前で、こんな音を鳴らしたい」という思いが伝わってきます。
今回、演奏される現代音楽はどれも、体に喜びが自然と湧いてくるような楽しい曲だと思います。他の現代音楽にも興味を広げていくきっかけになればうれしいです。
第63回大阪国際フェスティバル2025 開催概要
◇提携公演「東京都交響楽団 創立60周年記念 大阪特別公演」
4月20日(日)午後2時▽大野和士(指揮)、アリョーナ・バーエワ(バイオリン)▽ショスタコービチ「バイオリン協奏曲第1番」、チャイコフスキー「交響曲第5番」▽S席6500円ほか
◇大阪・関西万博開催記念 大阪4オケ2025
5月10日(土)午後2時▽S席1万円、A席7500円、学生席3500円。他の席種は完売▽協賛:朝日放送グループホールディングス、関電工、サントリーホールディングス、ダイキン工業、大和ハウス工業、高砂熱学工業、竹中工務店、西原衛生工業所、後援:2025年日本国際博覧会協会
◇神尾真由子×日本センチュリー交響楽団 華麗なる2大コンチェルト
9月23日(火・祝)午後2時▽神尾真由子(バイオリン)、大友直人(指揮)▽メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」序曲、バイオリン協奏曲、チャイコフスキー:バイオリン協奏曲▽S席8千円、A席6500円ほか。3月29日(土)一般発売▽協賛:朝日放送グループホールディングス、竹中工務店
◇クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
11月7日(金)午後7時▽5月一般発売
◆会場:フェスティバルホール(大阪・中之島)
◆主催:朝日新聞文化財団、朝日新聞社、フェスティバルホールほか
◆チケットはフェスティバルホール(06・6231・2221、https://www.festivalhall.jp)ほか主要プレイガイドで販売