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器に「命を与える」輪島塗職人の惣田登志樹さん=2025年1月16日、石川県輪島市、小玉重隆撮影

 昨年1月の能登半島地震で自宅は全壊。同9月の豪雨では、貴重な漆と今や入手困難な仕事道具のほとんどが土砂崩れで消えた。それでも輪島塗職人の惣田登志樹さん(72)は、廃業する考えはないという。

 「輪島塗にとって、本当の脅威とは自然災害ではない」。では、衰退を招くものとは何だろうか。

「もうけを優先」した時代に

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土砂に押しつぶされた惣田登志樹さんの工房=2024年9月22日、メ~テレヘリから、小玉重隆撮影

 惣田さんが漆塗りの職人として独立し、工房を建てたのはバブル景気前の1981年。「漆塗りのテーブルや飾り棚など、高級なものがバカバカ売れる時代だった」と振り返る。

 輪島塗は、しっかり塗ったものなら多少の衝撃では割れることはないという。しかし今、輪島塗の特徴である「堅牢さ」が失われつつあると心配する。「もうけを優先するあまり、丈夫さにかかわる漆の調合割合が低くなっている」

 漆器の製造・販売をする事業所などが加入する輪島漆器商工業協同組合によると、記録の残る90年以降で組合員数は最大で226あったが、2025年1月には101まで減少している。背景には、漆器より陶器を使う食卓が増えたこともある。

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土砂の中から、自分が塗った漆器や仕事道具を掘り出す惣田登志樹さん=2024年10月6日、石川県輪島市、小玉重隆撮影
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「下塗り」の工程。強度を決める重要な作業だ=2025年1月16日、石川県輪島市、小玉重隆撮影

 惣田さんは、塗りの作業を「命を与える」と表現する。「室町時代から続く職人たちがやっていたことを、まねしているだけ。材料、道具、塗り方。どれ一つとっても、一から考え出すのは絶対に無理ですから」。経済合理性よりも、過去の智恵や職人仲間とのつながりを大切にしたい-。「人間国宝をもしのぐ腕を持つ」との評価を受ける惣田さんの信念だ。

「時給500 円ほど」の厳しい生活

 豪雨の約3カ月後には、仮設…

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