お堂の廊下から、白い砂でいっぱいの枯山水の庭が見わたせた。中央には石が五つ。5体の仏からなる木造五智如来坐像(ざぞう)(国宝)を表している。

 約300平方メートルの新しい庭ができたのは2024年4月末ごろ。拝観者を受け入れるようになり、「開かれた寺」としてよみがえりつつある。

 ここは京都・山科の古刹(こさつ)、安祥寺。平安初期の848年に創建された高野山真言宗の寺で、JR山科駅から歩いて10分ほどの高台にある。

新しくできた庭の前に立つ藤田瞬央住職=2024年6月8日午後4時39分、京都市山科区、西崎啓太朗撮影

 荒れ果てた寺の復興を進めているのは住職の藤田瞬央さん(69)だ。大学教授だった親戚が前の住職を務め、2018年に藤田さんが受け継いだ。長く非公開で、檀家(だんか)も信徒もいない。参道は倒木に覆われ、お堂は雨漏りしていた。「境内は人を寄せ付けない雰囲気だった」と振り返る。

 兵庫県朝来市の金剛院の住職も兼ねる藤田さんは兵庫と京都を往復しながら、「開かれた寺に生まれ変わらせたい」と考えるようになった。

京都非公開文化財特別公開がきっかけに

 きっかけの一つは、京都古文化保存協会が主催する京都非公開文化財特別公開だ。ふだん公開されていない建物や仏像を披露し、拝観料を文化財の維持にあてている。

 19年春に初めて参加し、境内の一部を公開した。約10日間で約1万2千人が訪れた。御朱印を待つ人は1時間も列に並んだ。「文化財を多くの人に見てもらうことで、文化財の保護につなげたい」という思いが強くなった。

安祥寺の入り口にあたる薬医門=2024年6月8日午後4時1分、京都市山科区、西崎啓太朗撮影

 この年、五智如来坐像が国宝に指定された。大日如来を中心とした5体の仏像がすべてそろうのは国内最古とされる。創建当初は山上のお堂で、江戸時代には高さ約23メートルの多宝塔でまつられた。

 その多宝塔は明治時代に焼失…

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