平安初期の888(仁和4)年に創建され、遅咲きの「御室桜」も有名な世界遺産・仁和寺(京都市右京区)。その門前で進む高級ホテルの建設に「待った」をかけようと、周辺住民らが裁判を起こした。
景観と交通環境の悪化を懸念する訴えに対し、京都地裁は23日の判決で、どのような判断を示すのか。
「この静かな地域が好きなんです。ここで2人の女の子を育て、年老いた母を見送りました」
桐田勝子さん(73)は原告の1人だ。2階から仁和寺が見える自宅に庭はないけれど、その分、幼かった子どもや母と散歩した仁和寺とその一帯が「私たちの庭だと思ってきました」。近くの丘から、鳥のさえずりが聞こえることもある。
だが近年、訪日客が増えたこともあって、そんな暮らしが揺らいでいるという。
仁和寺とホテル建設地の間を走る「きぬかけの路(みち)」は、金閣寺、龍安寺、仁和寺と三つの世界遺産を結ぶ。桜と紅葉の季節は、歩行者やバス、タクシーの往来が絶えず、渋滞に悩まされる。
仁和寺前からバスに乗っても、時刻表上は2分で着く次のバス停まで10分かかることもあるという。
「園児たちは壁にぴたっと」
ホテル開業に伴う懸念は、住宅街が車の回り道となることだ。
きぬかけの路から住宅街に入れば、いまは静けさが保たれている。ただ道は狭く、車がすれ違うのも難しいほど。
近くには保育園も小学校もあり、「園児たちは車が来ると、壁にぴたっと寄り添っています」と桐田さん。
ホテル宿泊客らを乗せたタクシーが渋滞を避けて、住宅地に入り込むことが増えるかも知れない――そんな心配があるという。
《住民の暮らしとともにあるこの風景こそ、京都の魅力》
2021年3月に発表されたホテル建設中止を求めるアピール文には、歌手の加藤登紀子さんも名を連ねている。
増える外国人宿泊客と市の誘致制度
市などによると、来年2月の開業を目指してホテル建設が進む3866平方メートルの敷地は、もともと空き地。資材置き場だったこともある。これまでコンビニやガソリンスタンドの建設計画が持ち上がったが、反対運動もあって頓挫してきた。
なぜ、ホテル計画は進んだのか。
そもそも世界遺産の周りは緩…