様々なジャンルの「プロ書き手」によるニュースレターが配信される外部媒体「theLetter」で2024年12月21日に配信された記事です。今回は読者からの質問に回答する内容です。
思いやりが育つ年齢
今回【他者への思いやり・譲り合いの気持ち】がいつ頃育まれるものなのかをお聞かせいただければと思い、コメントいたします。わが家には年長と年少の兄妹がいます。普段は仲良しですが、おもちゃやおかずなどの取り合いになると、兄は頑として譲りません。妹も負けじと反論しますがしばらくすると妹が兄に譲るケースがほとんどです。親としてはもう少し相手を思いやったり、譲り合ったりする気持ちを持って欲しいなと思うのですが、そういった気持ちはいつ頃育まれるものでしょうか。時々親も思いつかないような提案をして、妹を言葉巧みにねじ伏せて?いて、感心するとともに心配な気持ちにもなります。また親として、子供に思いやりの気持ちが育まれるよう、何か働きかけられることがあればアドバイスなどいただけると嬉しいです。
子どもたちが他の人に思いやりを抱いたり、譲り合いの気持ちを持っていくのは自然なことです。一方で、それらを身につけていくプロセスは非常に複雑であり、個人差が大きいものです。
一般的に他の人間の感情や欲求を理解し、それに配慮して自分の中で感情を抱くようになるのは幼児期前半と言われていますが、その程度も、子どもそれぞれの気質や家庭環境、日々の親子関係のあり方によって異なります。兄弟姉妹がいる家庭では、上の子が優位な立場に立つことや、下の子が譲りやすくなる状況は珍しくはないはずです。
親御さんからすれば、子ども一人一人に、平等な思いやりや譲り合いの気持ちが芽生えていくのは理想的だと思いますが、子どもたちは実際には、日々のやり取りを通じて、時間をかけて「他者をおもんぱかる」姿勢を学んでいきます。
ある研究でも、幼い子どもたちが他者に対して援助的行動を示す素地は、かなり早期から存在することが示唆されています。例えば、「Warneken & Tomasello」の研究(#1)では、幼児は子どもながらに、他の人間を助けようとする自発的な行動様式を観察し、人間がいかに幼少期から、利他性や共感性の萌芽(ほうが)を持つかを示しました。
1歳半から2歳程度の子どもであっても、大人が困っている様子を見れば、何らかの形で助けようとする行動(例えば落ちた物を拾って渡すなど)をとる場合があることがわかっています。
しかし、この人を助けようとする基本的傾向は自然に習得していきますが、おかずの取り合いやおもちゃの取り合いなど、日常生活の中の複雑な状況でどのように発揮され、そして洗練されていくのかは、その後の子どもが置かれた環境や経験・学習に依存すると言えるでしょう。
「theLetter」とのタイアップ企画
様々なジャンルの「プロ書き手」によるニュースレターが配信される「theLetter」と朝日新聞がタイアップして、一部コンテンツを配信します。この連載では小児科医「ふらいと先生」が執筆するニュースレターから、子どもの健康や医療に関連する記事を配信します。
また別の研究では、2歳前後の子どもたちが、他者の必要性に応じて、どのように思いやり行動や援助行動を行うかが示されています(#2)。この研究によれば、2歳になるかならないかの年頃でも、子どもたちは状況や要求を理解し、他者に有利な形で資源を分け与えたり、自分が譲ったりする行動を徐々に身につけ始めることが報告されています。
一方で、そこはやはり子どもですので、その能力は未成熟であり、その時の気分や自己中心的な考え、対人関係の強弱などに左右されやすく、常に安定して「譲り合う」わけではありません。発達初期では、自分が得たいもの、譲りたくないものがあると、即座に他者の利益を優先するのは難しいことが多いのです。
こうした背景を踏まえると、相談者さんのように、兄弟姉妹間で上の子が言葉巧みに自分に有利な状況をつくり、下の子が最終的に譲る場面が頻発するのは、発達的に見ればある程度自然なこととも言えます。上の子は語彙(ごい)力や社会的駆け引き力がやや上回っているため、自分の願望を通す戦略を見つけやすくなります。一方、下の子はまだ言葉や交渉力で対抗することが難しく、最終的に譲ることで葛藤を避ける傾向が出てくるかもしれません。
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しかし、こうした対立と和解の過程は、子どもたちが人間関係の微妙なバランスや、自己と他者の欲求の違いに気づく経験の蓄積、そのものとも言えます。すぐに「完璧な譲り合い」が発揮されないからといって、子どもが思いやりを欠如しているわけではなく、むしろこの時期特有の「自分優先」の感情と、他者への配慮のはざまで揺れ動いている過程なのだと思います。
親御さんとしては、こうした場面で焦らず、どちらか一方を一方的に非難したり、無理やり譲らせたりするよりも、子どもたちの感情に寄り添いつつ、互いの気持ちを言語化して伝える手助けをすると良いでしょう。
さらに、親が子ども同士の衝突に介入する際には、単なる「怒る・叱る」ではなく、どうすればお互いが納得できるかを一緒に考え続ける姿勢が大切です。子どもたちは親の姿を見て、相手に対する対応やコミュニケーションの取り方を学習します。親が日常生活の中でパートナーや家族、友人とのやり取りを穏やかに解決し、相手の気持ちに耳を傾ける姿を見れば、子どもも自然とそうした対応を身につけやすくなります。
まさに、親の背中を見て子どもは育つということなのでしょうね。
#1. Warneken F, Tomasello M. Altruistic helping in human infants and young chimpanzees. Science 2006:311(5765):1301-3
#2. Brownwell CA, et al. To share or not to share: When do toddlers respond to another’s needs? Infancy 2009;14(1):117-130
1日13時間寝てほしい
ふらいと先生、いつもとても貴重な情報をありがとうございます。毎回興味深く拝読させていただいております。大変お忙しく、たくさんコメントがある中恐縮ですが質問させていただきます。現在第一子の10ヶ月の男児がおります。毎日家具のソファやテーブルに上り、階段も15段ノンストップで登れるて今にも歩きそうなぐらい体の発育が早く、体を動かしていないわけではないのですが本当に寝ません。新生児の頃から寝つきは悪かったのですが、新生児の頃から12時間ぐらい普通に起きています。休日はどうしても食材や日用品のなどのまとめ買いに車を運転して数時間出かけることが多いのですが、朝の6時に起きて夕方18時に寝る、というパターンが殆どです。平日に出かけても同様のことが多いです。平日は毎日支援センターに通い限界まで疲れさせて家に帰り、1時間半くらいは寝てくれることが多いのですが支援センターにだいたい4時間近く滞在しております。支援センターが開く10時までに朝起きてから寝てくれないことも珍しくなく疲弊する日が多いです。眠くなるタイミングは来るのですが1時半や2時間普通に泣いたのに寝なかったり、何か分かりませんが眠そうだったのに突然覚醒したりします(笑)幸い家族が近くにおり人見知りもないのでたまにお願いして息抜きできる日もあります。しかし我が子は本当に可愛いのですが目が離せなさすぎるので(たった数秒でテーブルの上にいたりする)疲弊する日が多いです。睡眠の本を読んだり食事や生活環境もなるべく意識しているのですが(極力テレビは見せず、スマホなどのスクリーンは一才見せておりません)どうしたらいいのかもうわからないというのが正直な感想です。彼には私のためというよりは脳の発達のために一日13時間近くは寝てほしいと思っているのですがこればかりは個人差で寝ない子なのでしょうか…また買い物で人の多い所に出かける事が刺激になって寝れない要因になっていたりするのでしょうか。拙い文章で申し訳ございません。大変お忙しいとは思いますがご教示いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。暑い日が続きますのでお身体にはご自愛くださいませ。
ご質問ありがとうございます…