柵が一切ない阿波ファームの妊娠房。妊娠中の母豚たちが自由に行き来している=徳島県阿波市、七星食品提供

現場へ! 豚の「福祉」に向き合う(3)

 体育館のような広々とした空間で、計約400頭の母豚が思い思いに過ごしている。みな妊娠中でふっくらと太り、おなかが大きい。一般的な養豚場なら妊娠ストールに「拘束」されている期間だが、ここに柵は一切ない。お気に入りの場所で寝そべり、仲間と寄り添い、好きな時に適量のエサを食べられる。

 養豚・食肉加工大手の七星(しちせい)食品が営む繁殖農場「阿波ファーム」(徳島県阿波市)に二つある「妊娠房」と呼ばれる施設だ。幅14メートル、奥行き32・6メートルの施設に、妊娠中の母豚が約200頭ずつ暮らす。

 1頭あたり約2・3平方メートルの広さが確保された空間には、遊び道具になる角材やタイヤなども用意されている。時にケンカも起きるが、複数のパーティションが設けられていて、負けた豚は逃げ込める。同社専務の池田員美(かずみ)さん(67)は言う。「阿波ファームには全部で約800頭の母豚がいますが、妊娠直後と分娩(ぶんべん)・授乳の期間以外は完全にストールフリーです。みんな自由に走り回っています」

讃岐山脈の南麓に立つ七星食品の阿波ファーム。左奥から2番目の建物が妊娠中の母豚たちがいる豚舎で、中に二つの妊娠房が設けられている=徳島県阿波市、七星食品提供

 讃岐山脈の南麓(なんろく)に位置する標高約400メートルの山中に、この広大な繁殖農場が設けられたのは2019年。高卒で入社して以来40年余り豚にかかわってきた池田さんらが中心となり、構想・準備に5年をかけて完成させた。

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