伊方原発の運転差し止めが認められず、不満を表明する原告ら=2025年3月5日午後2時3分、広島市中区、上田潤撮影

 四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)の運転差し止めを、広島の原爆被爆者ら337人が求めた訴訟で、広島地裁(大浜寿美裁判長)は5日、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。

 広島市は、伊方原発が立地する佐田岬半島から瀬戸内海を隔て、100キロほどに位置する。原告らは、過酷事故が起これば大気や瀬戸内海に放射性物質が拡散されるなどとして、2016年3月に提訴していた。

 約9年間続いた訴訟では、地震や火山噴火に対する伊方原発の安全性をどう評価するかが主に争われた。

 四電が耐震設計で想定している最大の揺れ(基準地震動)は妥当か▽佐田岬半島の間近に活断層が存在するか▽九州にある火山が、伊方原発に到達するほどの火砕流を伴う巨大噴火を起こす可能性と、その火山灰の想定が妥当か――などだ。

 原告側は、11年3月の東京電力福島第一原発事故で人々が避難生活を余儀なくされるなど深刻な被害が生じたことを踏まえ、伊方原発で過酷事故が起これば放射線被曝(ひばく)の危険にさらされる現状は、憲法が定める幸福追求権や生存権を侵害していると主張していた。裁判では、広島原爆の被爆者が自らの被爆体験などを意見陳述する場面もあった。

 伊方原発は1977年に営業運転を始めたが、1、2号機は現在、廃止措置中。3号機が唯一稼働している。

 伊方原発をめぐっては、住民らが差し止めを求める同様の訴訟が松山地裁や山口地裁岩国支部などでも起こされているが、大分地裁では昨年3月に住民側の請求が退けられていた(福岡高裁で係争中)。

 過去には、3号機の運転の差し止めを命じる司法判断もあった。

 広島高裁は2017年12月、熊本県の阿蘇山の大噴火による火砕流の影響を受けないとはいえないとして、差し止めを命じる仮処分決定を出した。同高裁は20年1月にも、近くに活断層がある可能性が否定できないとして差し止めを命じる仮処分決定を出した。ただ、いずれも後に取り消されていた。

四国唯一の原発

 伊方原発 愛媛県伊方町に建設された四国電力唯一の原子力発電所。九州に向かって延びる細長い佐田岬半島の付け根近くに位置し、北側の沖合には西日本を横切る「中央構造線断層帯」が走る。いずれも加圧水型で、1号機(56.6万キロワット)と2号機(同)はすでに廃炉が決まった。唯一運転を続ける3号機(89万キロワット)は、2010年からプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電を始めたが、現在は一時停止中。

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