新入幕を果たした2019年春場所の番付発表会見に臨んだ、友風(左)と師匠の尾車親方=大阪府堺市

 新小結・大の里が記録ずくめの初優勝を果たした大相撲5月場所。初日直前、元大関琴風の尾車親方(67)=本名・中山浩一、三重県出身=が会見を開くこともなく日本相撲協会を退職した。親方の定年は65歳で、70歳まで延長できる。尾車親方も1度は延長を申請したが、人気満了まで3年を残し、「尾車」の年寄名跡を後進に譲る。いま「老兵はただ消え去るのみだよ」と笑う。

体育以外はオール5だった。勉強が好きで、学校の先生になることが夢だった。だが、「人生は分からないもんだね」と笑う。力士となり、大関まで出世し、年寄・尾車を襲名し、協会ナンバー2となり、一門が異なる年下の八角理事長(元横綱北勝海)を支え続けた。

人生が動いたのは、中学2年になる1971年の春だった。大阪での3月場所で、相撲好きの父に連れられ、佐渡ケ嶽部屋の朝稽古を見に行った。当時大関だった琴桜が、少年の恵まれた体にひと目ぼれし、こう誘った。「東京に来ないか」

琴桜は引退後に「白玉親方」となり、部屋を起こすつもりだった。その最初の内弟子にならないか、という誘いだった。

「とんでもない! 鉄棒や跳び箱が苦手な肥満児に、東京に転校して相撲をやれ、なんて」

だが、琴桜のこの一言に乗せら…

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