勝つ、という野心の二文字を迷いなく、何度も口にする。元名人、永世棋聖資格保持者、日本将棋連盟前会長の佐藤康光九段(54)は輝ける棋歴を残しながら、今も勝利を激しく追い求めている。26日、東京都渋谷区の将棋会館での第83期名人戦・B級1組順位戦6回戦の近藤誠也七段(28)戦を前にロングインタビューをした。「A級に復帰しないと名人は取れないから」「極論すれば全部勝てばいいだけだから」。勝負の世界を生き続ける人の言葉を聞いた。
遠い夏の夜、佐藤康光は見た。
手を伸ばせば届く距離で目撃した。
棋士が本当の棋士になる瞬間を。
1985年7月30日、東京・将棋会館4階の特別対局室。当時15歳で棋士養成機関「奨励会」の初段だった高校1年生は、62歳の十五世名人・大山康晴が弟子の有吉道夫を迎え撃ったA級順位戦の記録係を務めていた。
熱帯夜の盤上で大山は勝勢を築いていく。ところが、小さな落手で優越が急迫した時、盤側から佐藤は体感した。
「大山先生が変わったんです…