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 細胞の遺伝子の変化を調べ、治療につなげる「ゲノム医療」。医療技術の発達により、がんや難病の治療薬が登場するなど、これからの100年はゲノム医療の時代とも言われる。欧米から遅れること10年、日本でもヒトの全ゲノム解析に取り組む組織が発足するが、本格稼働にはほど遠い状態だ。

 細胞には、生き物の設計図となるDNAが含まれ、そのところどころに遺伝子がある。ヒトでは2万ほどの遺伝子があり、遺伝子の変化が、がんや難病などの病気の原因になる。

 2019年に保険適用になった「がん遺伝子パネル検査」は、100種類以上のがんの原因遺伝子の変化を調べ、遺伝子ごとに薬を使い分ける。ただ、調べる対象は、関連が知られている遺伝子のみ。その遺伝子とは別のところに病気の原因がある場合には、限界がある。

 DNAを線路に例えると、遺伝子は駅。駅だけを調べても、がんの原因は駅と駅をつなぐ線路に隠れている可能性もあるからだ。

 そこで期待が高まっているのが、遺伝子を含むDNAを丸ごと調べる「全ゲノム解析」だ。これまで分からなかった、がんや病気の原因を突き止めて診断につなげ、その患者に適した治療の選択につなげられる。

 全ゲノム解析でなければわからなかった成果も出つつある。国内約420人の血液がん患者の検体をもとにした解析では、11人でRUNX1という遺伝子に構造異常が見つかった。他にも、従来の検査では調べられなかったDNA領域に原因がある難病の診断につながった事例も報告されている。

 早期診断や、集めたデータをもとにした創薬の成功確率の向上も期待されている。1人の全ゲノムを解析するための費用は、09年ごろは約3千万円かかったが、今では5万~10万円となり、解析も数日でできる。

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 東京大医科学研究所の井元清哉・ヒトゲノム解析センター長は「これからの100年はゲノム医療の時代だ。効きやすい薬の種類と量をゲノムで判断し、治療の有効性を上げられる」と話す。

 一方で、井元さんは、欧米に比べ日本の取り組みは遅すぎると指摘する。

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