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奈良教育大付属小学校。大学構内の一角にある=奈良市高畑町

 「不適切教育」「法令違反」といった言葉とともに、学習指導要領に沿わない指導が報道された奈良教育大付属小。教員や保護者が取材に応じ、背景や影響について語った。

 文部科学省は同校を含む国立大付属校の使命と役割として、「実験的・先導的な課題の取り組み」「地域の指導的・モデル的な取り組み」を挙げる(2016年)。

 30代の男性教員は「より良い公教育のモデルをつくるつもりでやってきた」と語る。教員は専門科目の「教科部」に属し、公開授業を毎年開くなど、「開かれた学校」で授業内容を磨いてきたと自負する。

 授業では、より理解を深めてもらおうと自作のプリントを多用するが、教科書の内容を踏まえたもので、学習指導要領から逸脱しないと考えてきた。理科の3年の単元を4年で教えるなど年次をまたいだのは、教員間で議論し、「より高い教育効果を期待できると考えたから」と言う。

 毛筆を使った書写は、男性の着任前から実施していなかった。国語の授業はじっくり考えたり、話し合ったりすることに力を入れており、「圧縮せざるを得なかったのでは」とみる。

 同校は2006年度から「みんなの学校」という理念を掲げてきた。公教育のモデル校として、「教育は政治や経済の目的や道具ではないとの思いを共有してきた」。

 だからこそ、英語や道徳の教科化やタブレット学習などは小学生の発達段階にかなっているか、教育に効率性や管理主義を持ち込まないか、慎重に検討してきたと男性は認める。

 授業時間の不足など、大学は記者会見で「法令違反」と断じたが、「目の前の子どもたちの反応に合わせる創造性こそが専門性と考えてきた。学習指導要領は大きな枠組みであって、現場の教育を硬直化させるものではないはずだ」と主張する。

 同校の校長は大学教員が兼任してきたが、3代前からは県教育委員会からの派遣が始まった。教員が退職しても大学は正規採用せずに単年度採用に切り替えている。同小ならではの実験的な取り組みへの締め付けが徐々に強まるのを感じていた中で、調査結果が公表された。男性は「不適切教育という言葉が一人歩きして、子どもたちを傷つけた」と嘆く。

 大学側は、授業時間が不足した項目については補習の実施などを命じる一方で、教員の出向方針を打ち出した。

 当初は「3年で全員異動」との方針を示したが、教員の反発もあり、「2年で半数程度」に後退。今年度は4人の出向・配置転換が決まった。県から人事交流で来ていた教員の帰任や単年度教員の退職もあり、教職員約50人のうち26人が同校を去ると3月の終業式で発表された。

 出向する女性教員は「犠牲になるのは子どもたちだ」と心配する。同校の教育の根っこには「一人の人間の成長を信じて、待つこと」があるという。

 授業中の立ち歩きや私語をする子どもを頭ごなしに叱りつけることはしない。「困った子は困っている子。その子の背景をとらえ、育ちを支えよう」との思いを同僚と共有してきた。6年間を通じて育ちを見守れるからこその指導だ。

 女性はかつて地元の公立小で教員をしていた時は「言うことを聞かせることが教員の力量」と思っていた。だが、付属小に赴任して「子どもが自分でつかみとる過程を支えるのが教員の仕事だ」と子どもたちから教わったという。

 しかし、教員が今後も次々出向することが見込まれ、6年間の育ちを見守ることは難しくなる。女性は「これまでのような接し方はできなくなるのでは」と心配する。

 大学によると、4日時点で教員の欠員は2人。発達障害などの事情を有する児童が別室で学ぶ「通級指導」は昨年度約10人の子どもが利用したが、今年度は教員が確保できず、実施の見通しが立っていない。

 50代の母親は「子どもが今春からようやく通級に通えるはずだったのに」と落胆を隠さない。子どもには学習障害があり、数年前から通級を希望していたが、定員の空きがなかった。窮状を県教委に訴えたが、「国立学校なので指導できない」と言われたという。

 「人事交流を進めておきながら、責任を負わない。すべての子どもが平等に教育を受ける権利が侵害されていることを大学と県教委は真剣に受け止めてほしい」と訴える。(机美鈴)

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