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元裁判官の村山浩昭弁護士

 身に覚えのない罪で重い刑を科せられた人が、長い年月を経て再審で無罪となる事例が後を絶たない。だが、袴田巌さんの死刑冤罪(えんざい)事件で機運が高まった再審法(刑事訴訟法の再審規定)改正は、先の国会では実現しなかった。超党派の議員連盟が法案をまとめたものの、議連の会長を出す自民党が共同提出に加わらず、審議入りも持ち越された。同党の法相経験者は議員立法に反対論を唱え、法制審議会(法相の諮問機関)でも議論が始まっている。

 国会、政府内の2ルートで並行する議論は、どこへ向かうのか。かつて静岡地裁裁判長として袴田さんの事件で再審開始を決めた村山浩昭弁護士は、法制審のメンバーでもあるが、まず議員立法を先行させるべきだと訴える。

千載一遇の法改正の好機

 ――裁判官として袴田巌さんの再審請求審を担当した経験から、再審制度を見直す千載一遇の機会だとして、早期の法改正を訴えていますね。

 「市民が袴田さんの悲劇を知り関心が高まった今を逃せば、再び何十年も制度の不備が放置され、議論が後退しかねないからです」

 ――「再び」とは?

 「かつて再審法改正の機運が大きく盛り上がった時期がありました。最高裁が1975年の白鳥決定と翌年の財田川決定で、開かずの扉とされていた再審に光明をもたらします。再審開始の要件である刑事訴訟法の条文『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』とは、それ自体で無罪を証明できるほど強力なものでなくとも、新旧の証拠を総合評価して確定判決の有罪認定に合理的疑いが生じるものであれば足り、またその判断も『疑わしきは被告人の利益に』の鉄則が適用される、と判示しました」

 「これによって80年代、死刑再審の4事件で無罪判決が出されます。無実の者が誤審で死刑台に送られていたかもしれないという衝撃は大きく、両決定の趣旨を明文化する法改正の議論が高まりました。しかし実現には至らず、90年代には『逆コース』とも言うべき現象が起こります。検察官は証拠開示により消極的になり、裁判所側も、両決定を限定的に解釈する最高裁調査官解説が公表され、再審請求を棄却する事例が相次ぎます」

 「白鳥・財田川決定という立派な判例があっても、その解釈運用は、個々の事件を担当する裁判官や検察官、その時々の組織の方針に委ねられたまま。冤罪の救済という本来の目的を果たす制度にするためには、法の明文規定が必須なのです」

偶然が重ならないと冤罪を救えない

 ――現行制度では冤罪の救済…

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