「相変わらずでした……」
2012年に県立岡山操山高校2年の男子生徒が自殺した問題を受け、県教育委員会がまとめた再発防止策案。遺族側は今年9月、その修正案について、県教委から説明を受けた。父親は非公開の会合を終えると、会場の外にいた記者に不満を漏らした。4時間に及ぶ話し合いで、遺族の思いに添った回答はほとんどなかったという。その疲れ切った表情から、募った不信感が見てとれた。
野球部マネジャーだった生徒は、監督だった男性教諭の激しい叱責(しっせき)が原因で自ら命を絶った。第三者調査委員会による検証が始まったのは18年。監督の言動が原因だったとする検証結果を受け、県教委が謝罪したのは22年。そして今年4月、県教委は再発防止策の案をとりまとめた。生徒が亡くなってから12年も経過していた。
再発防止策案は六つの資料で構成。教職員による体罰やハラスメントの防止策や、児童生徒の自殺防止対策と起きた場合の初期対応などを示した。県教委は6月からの実施を目指すとしていたが、遺族側は加筆や表現の変更などを求めた。遺族側からの意見は76件に及ぶ。
県教委の修正案では改善された点もあった。しかし、父親は「詳しい説明を求めても沈黙が続いた」「後退した部分も多々あった」と振り返る。修正案は依然として疑問点が残るものだったという。
県教委への批判は続く。外部識者の選定について、県教委が遺族の承諾なしに進めたと指摘する。説明の場への参加者を遺族側は事前に伝えたが、県教委側は示さなかったという。再発防止策は全資料公開としながら、県教委が作成中の教職員によるハラスメント防止のための教育動画は一般公開しないとする。遺族の思いとは正反対とも言える対応が目立つ。
再発防止策の実施時期は決まっていない。県教委は10月の県議会文教委員会で「遺族からの意見をどこまで反映できるか庁内で取りまとめ、再度遺族に示して了解をもらい次第、できるだけ早期に実施したい」と答弁している。
父親は「県教委は相変わらずかたくなで、時間が無駄に過ぎていく」と不信感をあらわにする。県教委は再発防止策について「主体的に取り組む」としてきた。これは結局、自分たちのルールに従って進めるということなのか。これでは再発防止に向けた自殺防止対策基本方針が「遺族と誠実に関わる」としていることと相いれないのではないか。
厚生労働省と警察庁のまとめでは、2023年には県内で18人の学生・生徒が自殺している。長引く「交渉」の末、最愛のわが子を失った遺族が「根負け」するような結果は誰も望まない。そのようにして出来上がった再発防止策では子どもの命を救うことはできないだろう。県教委という大きな組織が、個人の思い、遺族の思いにどれだけ寄り添っていくのか注視していきたい。