大阪・関西万博のアースマート「未来のフロア」にある古川研究室が出展協力した展示コーナー。ショーケースには、冷凍パウダーでつくった再生米が展示されている=2025年4月、大阪市此花区の夢洲、古川研究室提供

 山形大学工学部の古川英光教授(56)の研究室が、冷凍パウダーとして凍結し粉々にした食材と米を混ぜ、再び成形した「再生米」を、大阪・関西万博で展示している。栄養を保ったまま長期保存ができ、売り物にならない食材のロスを減らす可能性もある「未来の食品」だ。

 米粉に野菜をブレンドした「サラダ米」、鶏肉と殻付き卵を混ぜた「親子米」、食用バラを使った「花のお米」、食用として普及していない植物を使った「森のお米」……。食を通じて命を考える「EARTH MART(アースマート)」の一角、「未来のフロア」に、色とりどりの再生米が展示されている。国のプロジェクトで進める、「低温凍結粉砕含水ゲル粉末」という冷凍パウダーの研究でつくられたものだ。

 再生米は、マイナス200度近くに冷やした液体窒素で、米や野菜、肉を凍らせて粉々に砕き、冷凍パウダーとして混ぜ合わせて粒状に成形したもの。粉にするため、形が悪く売り物にならない野菜、キノコの石づきなどの廃棄部分、砕けて市場に出ない米も活用できる。乾燥の工程がないため、香りや栄養価を保ち、消化にも良いという。冷凍パウダーの掛け合わせは自由にでき、新しい食文化につなげることもできる。

 冷凍食品大手のニチレイフーズとも連携。将来の商品化、介護食や宇宙食への展開も見据える。食品ロス削減に加え、世界規模の食糧不足の改善にも役立つと期待されている。

 匂いを体験できるコーナーも。凍結粉砕したワインの搾りかすや山形県産の舟形マッシュルームを常温で展示している。凍結粉砕しパウダー状になったものは、風味や香りを常温で維持できる。

 古川教授はこの技術について「当初は後ろめたさがあった」と明かす。機械工学が専門で、食べ物を3Dフードプリンターでつくる研究を進めてきた。おいしく食べやすい材料を探して冷凍パウダーにたどり着いたが、「食材をわざわざ凍らせ、粉々にする意味」を考えあぐねていた。研究を進めるうちに、食の可能性を広げ、課題解決の糸口になりうることに気づいたという。

 日本が輸入に頼る液化天然ガス(LNG)は、気化の際に冷熱を排出するため、その冷熱を使って冷凍パウダーの生産を進めることにも新たな研究として取り組んでいる。

 一方で、技術の実用化にあたっては、製造コストや安定的な大量生産などの課題もある。新しい加工品のため、食品表示や安全衛生の制度面と、消費者の理解を高めていくことも課題だ。

 凍結粉砕の技術は、海外から訪れた人たちにも注目されている。「世界の人に使ってもらいたい日本発の技術がある。食品ロス削減を掲げながら、健康で持続可能な生活の恩恵がたくさんの人に行きわたるよう、貢献していきたい」

 展示は大阪・関西万博の会期中、入場チケットを購入のうえ事前予約で観覧できる。

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