原向日葵さん=2025年3月7日午後3時13分、島根県雲南市役所、中川史撮影

 今年度の「北方領土に関する全国スピーチコンテスト」で、全国の中学生からの応募5501作品のうち、島根県雲南市立三刀屋中学校3年の原向日葵(ひまわり)さんが最優秀賞である北方対策担当大臣賞を受賞した。日韓が領有権を主張する竹島(島根県隠岐の島町、韓国名・独島)や、日本原水爆被害者団体協議会のノーベル平和賞受賞にも触れた熱弁が高く評価された。

 コンテストは独立行政法人北方領土問題対策協会の主催で、内閣府や外務省、文部科学省などが後援。北方領土の歴史的な経緯や問題の解決方法、返還後のビジョンなどについて、考えたこと、学習したこと、友達や家族と話し合ったことなどについて、全国の中学生からスピーチ原稿を募集した。

 三刀屋中では全学年が、社会科の時間に竹島や北方領土に関する特別授業を受けている。授業をきっかけに領土問題に関心を持った原さんは2年生の夏、県内の中学生20人ほどと共に北方領土現地視察事業に参加し、北海道根室市を訪問。元島民や歯舞漁協の漁師らの思いを聞いた。

 3年生の夏には、隠岐の島町であった竹島・北方領土問題研修会にも参加。竹島で漁に従事した故・八幡伊三郎氏の孫で、町内の久見竹島歴史館の管理人の1人、八幡智之さんからアワビやアシカの漁の話を聞き、地元の中学生とディスカッションなどもした。

 原さんはこれらの体験から、領土問題は「難しい問題だけど、根本にあるのは人の思い」との考えに至ったという。根室市で、高校生が領土問題についての出前講座をしたり、ラジオ番組を制作したりしているのを知り、「私も次は語り部として(中略)次の世代にもっとつないでいきたい」などとスピーチ原稿に書いた。

 1次選考は各都道府県、2次は主催者が原稿を審査。最終選考に残った10人は、東京で持ち時間5分でスピーチをした。原さんは領土問題について、「(話題が)日常会話の一部になることが、解決への近道になる」と述べ、「関心がなかった人の考えを変えていけるように活動していきます」と結んだ。

 原さんは昨年も最終選考に残り審査委員特別賞に選ばれていた。今回は「自分の思い、元島民らの思いをどうやったら伝えられるか、身ぶり手ぶり、表情や声の抑揚も工夫した」という。

 審査委員長を務めた山内聡彦・元NHK解説委員は「根室の高校生の取り組みに刺激を受け、自分も語り部として思いをつなげていきたいと述べ、頼もしい。被団協のノーベル平和賞受賞を受けて『時代の流れがどうあれ、伝え続けることが大切だ』と語ったことは、非常に訴えるものがあり感銘を受けた」と講評した。

原さんのスピーチ全文

 「違う! そうじゃないんだよ!」

 「他にも島なんていっぱいあるし、わざわざ取り返す必要なんてある?」と言った友達に、私は思わず言いました。それと同時に、私も以前は同じように考えていたことを思い出しました。

 「領土問題は難しい問題だけど、根本にあるのは人の思いなんだよ。大好きな故郷に帰りたいのに帰れない。もし自分が同じ思いをしたら、簡単に片づけられる?」。と私が言うと友達は「領土問題って、自分に置き換えてみると考えやすいね」と言いました。

 友達に自分の考えを自信を持って伝えられるようになり、何も知らなかった頃の私から今は変わりました。そうはっきり言えるのは、中学校に入ってからの様々な経験と自分自身だということに気がつきました。

 私は去年の夏、隠岐の島町で行われた竹島・北方領土問題研修会に参加しました。研修会では、久見竹島歴史館に行き、竹島で漁をしておられた方の孫にあたる八幡さんのお話を聞いたり、隠岐の中学生とディスカッションをしたりして、たくさんのことを考え、吸収することができました。

 また私は一昨年、北方領土現地視察事業で根室を訪れました。隠岐の研修会では、根室で学んだことや北方領土の元島民の方の思いを伝えられるのは、スマホや資料ではない、人の言葉、生の声だということを隠岐の中学生に伝えました。みんな真剣に私の話を聞いてくれました。その時、私は自分が今まで学んできたことや領土問題に対するたくさんの人の思いを伝える側になったと自覚することができました。

 私は、運よく視察事業で元島民の方のお話を直接聞くことができ、隠岐でも八幡さんのお話を聞くことができました。現在、北方領土の元島民の平均年齢は88歳を超えました。直接お話を聞くことができるのは、私たちの世代が最後かもしれません。

 直接聞くお話は、文面で見るのとは全く違い、自分の認識を大きく変えるものでした。でも、そのような経験ができる人は限られています。だからこそ、周りの人や次の世代につなぐ重要な役割を私たちは担っていると思っています。

 また、根室高校の北方領土研究会の方は、出前講座を行ったり、ラジオ番組を開設したりと次の世代につなぐための活動をしておられます。同じ世代の高校生が元島民の方の思いをつないでいる姿を見て、大変刺激を受けました。私も次は語り部として、領土問題に対するたくさんの人の思いを次の世代にもっとつないでいきたいと思いました。

 先日、日本原水爆被害者団体協議会のノーベル平和賞受賞のニュースを見ました。戦後80年ずっと、「私たちは核兵器廃絶をあきらめません」と訴え続けられました。このことからも、時代の流れがどうであれ、すぐに結果につながらなくても、伝え続けること、思いを持ち続け、あきらめないことの大切さを実感することができました。

 元島民の高齢化、国民の認知度の低下など領土問題に関する問題は山積みです。大多数の人は、自分一人が考えても何も変わらないと思っているでしょう。でも、より多くの人に知ってほしい。私が伝える側になって、もっとたくさんの人を巻き込みたい。知るということは、知識を増やすだけでなく、そこにかかわった人の思いに触れ、今の自分には何ができるかを考えることにつながります。

 私は、領土問題が日常会話の一部になることが、解決への近道だと考えています。そのために、私はもっとたくさんの人を巻き込み、竹島や北方領土に関わる人の思いをつなぎ、領土問題に関心がなかった人の考えを変えていけるように活動していきます。

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