【動画】グリーンランドで半世紀、犬ぞり猟師として生きてきた大島育雄さん=中山由美撮影
グリーンランドで半世紀以上にわたって伝統的な狩猟生活を送る団塊世代の日本人男性がいる。気候変動にさらされる極北の島で、先住民と暮らす大島育雄さんの目にはどんな景色が映っているのだろう。これで最後かもしれないという日本への帰国を機に、現地で取材をしたことのある2人の記者が聞いた。
世界最北の村で先住民と暮らし、ホッキョクグマやセイウチを狩る
――世界最北の村、シオラパルクでいまも犬ぞり猟を?
「これまでホッキョクグマやセイウチ、アザラシ、カリブー(トナカイ)、ジャコウウシなど何でも捕ったよ。最近は体力がなくなり、村の近くでウサギやキツネを捕るぐらいだね。数年前、最後に氷床まで犬ぞりで遠征したときはジャコウウシの10頭以上の群れに出くわしたんだが、警戒心が強くて仕留められず、結局、ライチョウを1羽捕っただけだった。最近はセイウチは大きすぎて1人でさばけないので、長男のヒロシら若い者に任せている。孫のイサムは犬ぞりにはあまり乗らず、猟師はやっているけれど、それだけでは稼げないので、村の売店でレジ打ちをしているよ」
〈日本の約6倍の面積がある世界最大の島グリーンランドは、島の8割が氷に覆われている。人口は約5万6千人。デンマークの自治領だが、近年、外交や防衛、司法以外の広範な権限が自治政府に移されつつある。南極の昭和基地よりも高緯度に位置する西海岸最北部のシオラパルクは、一般住民が生活する世界最北の村と言われる〉
――先住民と共に生活をして半世紀以上、北極圏はどう変わりましたか?
「1990年代半ばまでは海氷も安定していて、沖へ何十キロも犬ぞりで出ていってキャンプしても問題なかった。いまは氷が薄くて、割れて流されたら帰れなくなる。陸上も、凍土が解けて崖崩れが起きている」
「獲物のいる場所も変わって猟もやりにくくなった。以前は一日中太陽が沈まない白夜の季節にもセイウチは来ていたから、遠くからボートで近づいて仕留められた。ここ十数年は海氷がなかなか安定せず、いつまでも北の方にいるんだ」
〈北極は温暖化の影響が最も著しい場所の一つで、夏の海氷面積は年々縮小している。グリーンランドの氷床も急速に解け、氷河の融解や、以前はなかった豪雨で水害も起きている〉
極北の地を変える温暖化と貨幣経済
――伝統的な犬ぞりで猟を続ける人は今、何人くらいいるのですか?
「北西部の四つの地域で40…