馬具メーカー「ソメスサドル」会長 染谷昇さん(73)
雪山をのぞむ牧場で、2頭の馬が草を食(は)んでいる。かたわらの工房で、職人が手を動かす。
日本にただ一つ残る馬具メーカーの経営トップとして、大切にしてきた日常だ。
生まれ育った北海道空知(そらち)地方の大自然と、手仕事へのこだわり。開拓の時代から引き継ぐ技術をここで磨けば、世界への道が開けると信じている。
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産炭地の再興めざして
馬具とのかかわりは、唐突だった。歌志内市の炭鉱職員で市議会議長まで務めた父が、前身の会社の再建に携わる。自分も大学を出た後、輪に加わった。
会社はその12年前、乗馬用馬具の輸出専門でスタートしている。炭鉱の閉山で沈む町の再興をめざし、父ら市関係者が創業を促した。開拓で活躍した農耕馬の馬具職人が集う。だが、石油危機と円高で行き詰まった。
「つぶすわけにはいかない」という故郷への思いに共感し、飛び込んではみた。でも、馬や商売のことは何一つ知らない。
「周りから無謀と言われる挑戦の連続だった」
東京の知人のもとで1年見習…