医療行為による死亡事故の原因を調べ再発防止につなげる「医療事故調査制度」。制度開始から今月で9年を迎えたが、病院によって対応や判断に差が生じ、事故の報告数は横ばいが続いている。制度の運用を担う日本医療安全調査機構は今月、検討会を立ち上げた。現状の課題を整理し、改善に向けて議論する。

医療事故調査制度のリーフレット。来年10月、制度ができてから10年となる

 制度は2015年10月に始まった。医療法では、提供した医療に起因するか、その疑いがあり、予期していなかった死亡事故が起きた場合、管理者(病院長)は第三者機関の医療事故調査・支援センターに報告しなければならないとされている。その後、院内で調査し、結果は遺族に説明することが求められる。

 報告数は16年の406件が最多。その後は毎年300件台で推移している。センターに報告するかは病院長の判断になるため、実際の医療事故はもっと多い可能性がある。

 それを示唆しているのが、病院や地域によるばらつきだ。23年末までの実績では、600床以上の大きな病院のうち、複数回報告したことがある病院が6割だった一方、1回も報告したことがない病院が2割を占めた。都道府県別で人口100万人あたりの報告数をみると、宮崎が最多で5・2件、福井が最少で1・0件となっている。

医療事故発生の報告件数

 機構は23年1~2月に全国の病院を対象にアンケートを実施。24%にあたる2235病院から回答があった。報告の実績がない病院に理由を尋ねると、「医療行為に関連する死亡がない」「予期せぬ死亡がない」に次いで、4割近くの病院が「管理者が事故報告事例ではないと判断」と答えた

 制度の目的は、個人の責任追及ではなく、再発防止や医療の質向上だが、病院長が十分に理解しているとは限らない。アンケートでは、制度の研修を受けたことがあると答えた病院長は4割にとどまった。

 機構の宮田哲郎常務理事は「調査をすると遺族からの訴訟が増えるという誤解や、忙しいのに仕事を増やしたくないという感覚がいまだにある」とみる。調査を経て遺族との関係や院内の体制が改善された事例の共有を進め、「制度を活用することのメリットを実感してもらいたい」と話す。

日本医療安全調査機構の宮田哲郎常務理事=2024年10月3日、東京都港区、藤谷和広撮影

 検討会は医療者や弁護士、遺…

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