南海トラフ地震の国の被害想定が、約10年ぶりに見直された。自治体のハード整備などによって死者数や全壊建物数はやや減ったものの、国の目標だった「死者は8割減少、全壊は5割減少」には届かなかった。一方で、少子高齢化や都市部への人口集中が進んだことで、要支援者や避難者の増加といった新たな課題も見えてきた。未曽有の災害にどう備えればいいのか。想定の検討会で主査を務めた名古屋大の福和伸夫名誉教授に聞いた。
――今回の被害想定では、最悪のケースで死者は約29万8千人、全壊焼失は約235万棟に上り、前回からの減少幅はわずかでした
少子高齢化と一極集中、社会が弱く
はっきり言えば、国民や産業界の努力が足りなかった。建物の耐震化や高台移転はほとんど進まなかったし、津波への避難意識が高まったという証拠も得られなかった。本気で問題点を伝える姿勢に欠けたメディアにも責任の一端がある。
この10年間で、少子高齢化や東京への一極集中がさらに進み、社会全体が弱くなった。それが如実に表れたのが、昨年発生した能登地震だ。インフラの復旧に時間がかかり、過疎も深刻化した。南海トラフ地震の被害は、能登地震の300倍以上。今回の被害想定には「そろそろ国民全員が本気で事前防災に取り組まなければ、取り返しがつかないことになる」というメッセージを込めた。
住み続けられる設計になっていない
――対策を進めるうえで、必…