JR野辺山駅前。駅舎の横に、メガネとちょうネクタイを着けた牛のモニュメントがあった=2025年7月27日午後2時28分、長野県南牧村、御船紗子撮影

 週刊少年サンデー(小学館)で連載中の人気漫画「名探偵コナン」を原作とするテレビアニメの劇場版が、新たな観光需要を生み出している。作品の舞台となった自治体では、急きょ警備などの予算を組むところもある。

聖地巡礼のためシャトルバス

 夏休みが始まった7月下旬、野辺山駅(長野県南牧村)。JRの駅で最も標高の高い駅として知られる駅の前にいた観光客は、鉄道ファンではなく、コナンファンだった。駅舎や持参したぬいぐるみと景色の写真を撮っていた。

 駅舎前に青いミニバスが止まると、観光客が乗り込む。車内には記者も含めて5人。5分と経たないうちに、映画で登場したお目当ての「国立天文台野辺山」に着いた。

 天文台では、家族や友人同士の旅行者が数組歩いていた。キャラクターのぬいぐるみと記念撮影する若い女性や、両親に手をつながれたちょうネクタイ柄のTシャツの男の子も。ただ、決して混雑しているわけではなく、帰りのバスも空席が目立った。

 「多いようには見えないでしょうが、うちにとってはかなり来てくれている方なんです」

 有坂良人・南牧村長(67)は言う。

劇場版「名探偵コナン 隻眼の残像」の舞台となった長野県南牧村の有坂良人村長

農道ふさぐ観光客の車 対策に追加予算も

 長野県東部に位置する村は、近隣の軽井沢、清里、八ケ岳などが観光地として人気だ。村には野辺山駅や天文台があるものの、観光客は「今と比べれば決して多くはなかった」という。

 転機は昨年10月。今年4月に公開された「隻眼の残像(フラッシュバック)」の舞台になったと伝わってきた。村の主産業は農業。国道が観光客の車で詰まれば、多くの農家が高原野菜を出荷できなくなる。村は今年度の当初予算に、国道の清掃費、臨時シャトルバス代、警備員の人件費など「コナン関連予算」として3234万円を計上した。

 オーバーツーリズム対策に万全を期して映画公開の今年4月を迎えたが、映画は公開19日目で興行収入100億円を突破する記録的ヒット。直後の大型連休では、天文台近くの道路に無断駐車が連なり、畑からトラクターが出られなくなったこともあったという。

 天文台野辺山は、5月の来場者数が2万5334人で、前年同期(4088人)と比べ6倍の観光客が訪れた。西村淳所長(39)は「天文台が舞台になると知ったときは正直よくわからなかったが、多くの人が来てくれて驚いている」。5月4日には4470人が天文台を訪れ、1日の来場者数の過去最高を更新した。

 人口3400人の村にとって、「コナン関連予算」は決して少額とは言えない。シャトルバスは無料のため、予算分を観光客から回収できる見込みはない。それでも、有坂村長は「村に来てくれた人にいいイメージを持って帰ってほしい。PR費と考えれば安い」と言い切る。夏休みにもっと警備員を配置するため、追加で少なくとも600万円の追加予算を組む。

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「人生コンテンツ」 母から子へ受け継がれ

 少年漫画が原作の同作がここまで人気を集めるのはなぜなのか。

劇場版「名探偵コナン 隻眼の残像」の応援上映にグッズ持参でかけつけたファン。自作のペンライトにはキャラ名や、キャラの名セリフが書かれている=2025年6月13日午後9時44分、東京都新宿区、御船紗子撮影

 「(真実は)いつも一つ!」

 6月13日夜、東京や大阪な…

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