【連載】フロントランナーの試練 欧州気候危機 第5回(最終回)
気候変動対策のフロントランナーとして世界をリードしてきた欧州。記録的な熱波に加え、洪水や砂漠化、山火事などが相次ぎ、住民の暮らしを根底から揺るがしています。危機的な試練に直面する欧州の今を伝えます。
地中海に面したスペイン東部バレンシア自治州。渓谷を流れる川に南北を隔てられた町ピカーニャでは、昨年10月29日夜に起きた豪雨による洪水で、町の5カ所の橋のうち4カ所が濁流に壊された。洪水による死者228人のうち、ピカーニャの犠牲者は避難の遅れた住民ら11人に上る。
「私たちはあなたを忘れない」。洪水から半年あまりが過ぎた今年7月末。町の中心部に軍が架けた鉄製の仮橋の欄干には犠牲者を悼むメッセージや、遺影がいくつも掲げられていた。
祖父母の代から川岸の家に住んできたサルバドール・シスカルさん(62)はあの日、2階まで迫った水を逃れるため、屋根の上まで逃げた。「誰かが『助けて』と叫ぶ声が聞こえたが、何もできなかった」と悔やむ。
スペイン国立気象局(AEMET)が発表した報告書によると、バレンシア近郊の観測所では昨年10月29日、スペインで集中豪雨の目安とされる基準の3倍に上る1時間185ミリの降水量を記録した。6時間あたりの降水量は620ミリを超え、1年間に降る雨の総量に匹敵する規模に達し、スペインの過去最多雨量の記録を更新した。
AEMETは同日午前7時3…