その名前がコールされるたびに、甲子園球場はひときわ大きな拍手に包まれた。
準決勝の日大三(西東京)―県岐阜商。同点の九回裏、県岐阜商の攻撃は7番・右翼手の横山温大から始まった。左打席に入る前、360度を見渡すと万感の思いがこみ上げてきた。
「あきらめずにやってきて本当によかった」。最後の夏、最高の景色が待っていた。
横山は生まれつき、左手の人さし指から小指がない。普段の生活はもちろん、野球をするうえでも様々な困難があっただろう。
でも、言い訳にしない。
この夏、春夏通算4度の甲子園優勝を誇る強豪校で定位置をつかんだ。大舞台でも準々決勝までの4試合すべてで安打。準決勝も二回に犠飛を放った。
ボールをとらえた後は右手1本で振り抜く。振り始めたバットを途中で止めるのは難しい。
「だから振ると決めたら、打…