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(左から)河野臨九段、蘇耀国九段、孫喆七段=2024年11月26日午後3時42分、東京都千代田区の日本棋院、北野新太撮影

 節目の第50期を迎えた囲碁名人戦挑戦者決定リーグ戦(朝日新聞社主催)が5日に開幕する。メンバー構成を大幅に若返らせた少壮気鋭の3人を迎え、ニューウェーブは巻き起こるか。蘇耀国(そようこく)九段(45)、河野臨九段(43)、孫喆(そんまこと)七段(28)が展望した。

 ――リーグの顔ぶれを見て、感想は。

 孫 若手の勢いがすごいですね。初リーグの広瀬さん、福岡さん、前期のリーグ陥落から即復帰の関さんは、いずれも一力さん、芝野さん、許さんの「令和三羽ガラス」より下の世代です。

 蘇 広瀬さん、福岡さんの最終予選決勝の相手が依田(紀基九段)先生と張栩(九段)さん。元名人のふたりでもなかなか若い人には勝てない。こういう時代に入ったんだなという印象です。

 河野 福岡さんは18歳。ひと昔前ならすごいって感じだったけど、彼に関してはやっと入ったかというイメージです。今の時代は18歳といっても若くありません。

一気に若返り、進むAI研究

 ――名人の一力さんを加えた平均年齢はリーグ史上もっとも若い28.5歳。半世紀前の第1期は46.1歳でした。

 蘇 AIがない時代、30代はまだ若手、一番脂が乗っているのは40代という感じだったからね。

 ――それにしても一気に若返りました。

 孫 令和三羽ガラスより下の世代で、前期に初めて関さんがリーグ入りしました。ひとり出ると、不思議と続けてどんどん出てくる。あいつができるなら自分たちもやれるんだっていうメンタルは、けっこう碁に影響してくる。広瀬さんも、同門同世代の関さんの活躍を見て、相当の刺激を受けたと思います。

 蘇 僕的にはむしろおじさんたちがよくがんばっている。世界的に30代、40代の活躍はすごく難しくなっている。若手のリーグ入りは遅いくらい。日本でもどんどん10代、20代が中心になってくるでしょう。

 孫 最近の若手はとにかくAIの研究が進んでいる。序盤はもう記憶力勝負。いかに相手が調べてなさそうな手を調べているかみたいな。

 蘇 昔の序盤は感覚と経験である程度打てた。若手とベテランの対決だったら、だいたいベテランがリードした。今は逆。もちろん僕たち40代もAIを使って記憶すればいいんだけど、抵抗がある。碁の考え方が根本的に変わっているんです。だから今まで自分が習ったものを消さなくちゃいけない。それが痛い。消したら自分じゃなくなるみたいな。子どもだったら一から覚えればいい。僕たちおじさんが一から覚えるのはしんどい。

 河野 碁打ちは無意識のフォームを身につけることが大事で、パンチが来たら反射的にこう受けるということを、考えなくてもできるくらい訓練する。でも、僕たちはそのフォームが昔のものなんですね。それを全部いったんはがしてくっつけ直さなきゃいけないのは、たいへんなんです。

 ――ベテラン受難のAI時代に、46歳の山下さんは15期連続で名人、またはリーグに在籍しています。

 河野 パンチ力がありえないくらいずぬけている。補ってあまりある中盤以降のパワーで押し返している。

 孫 時代の波に逆らってるっていう言い方もあれなんですけど、若い人の中で最前線で戦っているのは本当にすごい。中盤以降はみんな未知の世界になってくるので、持って生まれたものが出てくる。山下先生はそこが本当に強い。

 河野 この人だったら勝てるかもしれないと、錯覚でもいいから思うかどうかって、勝負においてはでかかったりする。ひと昔前のベテランの先生って、なかなかそう思わせない空気をまとっていました。俺らは格が違うんだぜみたいな感じ。それが今はAIで手の善悪が見えてしまうから、そういうオーラをまとうことができない。ネームでビビってもらえない中で踏ん張っているのは、とんでもなく力があるってことだと思います。

下克上は? 注目棋士は?

 ――シード組は18期連続の井山さんから5期連続の余さんまで、不動のメンバーです。下克上は起こりうるのでしょうか。

 蘇 芝野さん、井山さん以外…

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