ミャンマー国軍が2月に導入した徴兵制は、多くの国民の人生を狂わせた。国外脱出や、武装勢力への参加――。それまでの生活を捨て、徴兵から逃れる当事者の思いを聞いた。
徴兵に「おもちゃじゃない」 国軍への怒り
ミャンマーと国境を接するタイ北西部メソト。ミャンマー人避難民の男性(20)は言った。「国民に銃を向ける自分を想像したら、逃げるしか選択肢はなかった」
2021年に国軍がクーデターで全権掌握後、出身地の北西部ザガイン管区では国軍と抵抗勢力の衝突が頻発。男性は昨年末、最大都市ヤンゴンに逃げ込んだ。
英語やITを学べる学校を探していた矢先の2月10日、徴兵制が発表された。「僕は国軍の『おもちゃ』じゃない」と怒りが湧いた。
国土の全方位で戦線を抱え、国軍は兵力不足に陥った。その結果として導入された徴兵制は男女とも対象で、一般男性の年齢幅は原則18~35歳とされている。
男性は、国軍支配下の社会でも国軍批判などを避ければ安全は保てると考えていた。だが今回、「若く体力のある自分は真っ先に徴兵される」と怖くなった。ブローカーを頼り、2月中旬にヤンゴンを出発。定員15人のバスは同世代の若者で満席だった。
3日後、タイ国境沿いのミャワディに到着。バスを降り、幅10メートルほどの川を小舟で渡りメソトへ。密入国だと理解していたが、国軍から逃れる一心の男性には「最高の瞬間」だった。
ミャンマーでは国軍による抑圧的な支配が今も続き、その中で突如導入された徴兵制に市民は大きく反発しています。記事の後半では、ある苦渋の決断を下した家族の話を紹介します。
メソトではミャンマー人の支援施設に保護され、同じくミャンマーから逃れた若者と共同生活を送る。寝床や食事は施設から提供されるが、不法滞在のため、敷地外に出れば警察に捕まる可能性がある。
「僕は逃げられたが、地元の…