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完成した狐ケ崎の写し(上)と、太刀の拵(こしらえ)(中)。下は狐ケ崎を打った刀匠「為次」の属した青江派の刀剣=2025年5月5日、広島県北広島町の戦国の庭歴史館、神﨑卓征撮影
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 中国地方に勢力を誇った吉川家に家宝として800年余にわたって代々伝えられている国宝の太刀「銘為次 狐ケ崎」(公益財団法人吉川報效(ほうこう)会所蔵)。現代の名工が技の粋を集めて再現した「写し」が完成し、広島県北広島町で一般公開されている。

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 狐ケ崎は2尺6寸(約79センチ)の太刀で、銘の「為次」は、岡山県倉敷市で活躍した「青江派」という刀工集団に属していた刀工。鞘(さや)や柄(つか)、鐔(つば)などの刀装具も当時のままの状態で現存する、国内でもあまり例がない希少な太刀だ。

 狐ケ崎は歴史の重要な舞台に立ち会った太刀としても知られている。1200年、源頼朝の死後に梶原景時が排斥されて京都に向かう途中、駿河国狐ケ崎(静岡市)で吉川家2代当主の友兼(ともかね)らと争いとなり、景時が自害するという事件が起きた際、友兼が身につけていたことがわかっている。

 写しの作成は5年前、吉川家がかつて治めた北広島町を中心に活動する「安芸吉川会」を中心に持ち上がり、同町のクラウドファンディングなどで制作費約1700万円を調達した。

 作成には、同町在住の刀匠三上高慶(たかのり)さんのほか、刀装の監修に国の選定保存技術保持者の鞘師高山一之さんが当たった。ほかにも鞘師の田沢敦嗣さん、研ぎ師の萩泰明さん、白銀師の中田育男さん、柄巻き師の岡部久男さん、塗師の岸野輝仁さん、装剣金工の木下宗風さん、革職人の大崎哲生さん、道具鍛冶(かじ)の石社修一さんら、名だたる現代名工が参加。東京芸大の原田一敏名誉教授が監修を務めた。

 完成記念のパネルディスカッションが北広島町で4日に開かれ、原田名誉教授は「単なる作られたものの伝承でなく、現代の制作者がどう考え、どういう仕事をしていったかということを、後世にできるだけ明らかに残していきたかった」と述べた。

 職人らが参加したディスカッションでは、国宝を傷つけないように3D計測した苦労や、写真資料だけではわからない部分と向き合う苦悩、鞘に巻く馬の皮を薄く加工する技術や道具の工夫なども語られた。

 狐ケ崎の写しは、北広島町海応寺の「戦国の庭歴史館」で6月22日まで見ることができる。写しの作成に歴史考証の立場でも参加した、甲冑(かっちゅう)師の豊田勝彦さんが監修した甲冑展も同館で開かれている。町内の亀山八幡神社で確認された貴重な甲冑なども展示。入館は大人300円、高校生100円、中学生以下無料。月曜休館。

 問い合わせは同館(0826・83・1785)へ。

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