三重県名張市中町で酒屋を営む角田(すみた)勝さん(81)、久子さん(74)夫妻が、地元の歴史や昔話を紹介する影絵劇を自宅で上演してから、今年で20年を迎えた。時には口げんかもしながら、役割を分担して「劇団ふたり」を名乗ってきた2人。新たに25作目ほどになる「大作」を手がけた。
角田家は江戸時代中ごろの1776年に酒造・両替商として創業した。夫妻は幕末ごろに建てられた家屋の奥座敷を活用して2004年、影絵劇を始めた。「影絵劇団にいた知人の勧めがあって。お金はなかったけど、名張の歴史を発信しよう、と」
久子さんが、黒色ケント紙やセロハンで影絵を作る。CDで流すナレーションや音楽に合わせて場面を転換したり、人形を操ったりするのも久子さんだ。一方、上演時の勝さんは拍子木を打って前口上などを担うだけ。「『劇団ふたり』やなくて、『劇団ひとり』やと言われることもあります」と久子さん。「でも、お父さんにいろいろ(操作のことを)指摘されると、腹も立つけど、当たっているんです。周りを巻き込む人脈もあるし。やはり『劇団ふたり』なんですね」
最初に作った影絵劇は、角田家3代目の半兵衛とみか夫妻の物語。写実的な「生(いき)人形」で知られる幕末から明治期の人形師、安本亀八が作った夫婦の坐像(ざぞう)が家に残されていたためだ。
その後、名張で生まれた江戸川乱歩や伊賀忍者、奈良・東大寺修二会(しゅにえ)への松明(たいまつ)奉納、地元の昔話、童謡などを次々作り、観光客ら向けに上演した。英語版も制作した。18年には地域文化の振興に貢献した人を顕彰する「なばりのたからもの」(名張ユネスコ協会)に選ばれた。
新作は20分を超す大作、高校生も協力
今回の新作「神様になったお殿様」は名張藤堂家の初代高吉(たかよし)が主人公。織田信長の重臣、丹羽長秀の三男として生まれた高吉は、羽柴秀吉の弟、秀長の養子になった後、藤堂高虎の養子に。関ケ原の合戦や大坂夏の陣で活躍し、伊予・今治城の城主となったが、高虎に実子が生まれたため跡継ぎにはなれず、50代半ばで名張に領地替えとなった。
名張では本格的な街づくりに尽力。91歳で亡くなると家臣らは遺徳をしのんで寿栄(ひさか)神社を建てて高吉をまつった。高吉を取り上げたのは、「周囲の思惑に翻弄(ほんろう)されても、運命にあらがわず、置かれた場所で自分にできることを着実になしとげていった」ためだ。
脚本は地元の乱歩研究家で郷土史家の中相作(しょうさく)さんが担当し、ナレーションと音楽は私立桜丘高校(伊賀市)の放送部員が協力。これまでの作品の中で最長の20分を超す大作で、制作に4カ月をかけた。角田夫妻は「体が続く限り、夫婦仲良く続けたい。大阪万博もあるし、いろんな人に見てもらいたい」と話す。
影絵劇の上映は予約制(5人以上)で席料1人500円(茶菓子つき)。問い合わせは角田さん(0595・63・0032)へ。(小西孝司)