坂口恭平さんの新刊「その日暮らし」(palmbooks)は優しい手触りのエッセー集。一日の終わりに読むと、じんわりとした安らぎをくれる。そして本章の先に、自らの存在の根源をたどったあとがきが待つ。
坂口さんは本を書き、絵を描き、歌って、陶芸をし、「いのっちの電話」を24時間受ける。コロナ禍のなかで畑仕事も始めた。熊本でのそんな日々で「経験したことを素直に書いてみたいと思った」という。昨年に2カ月半ほど新聞連載したものをまとめた。
双極性障害のため、うつになると自分を激しく責め、否定する。そんな時こそ絵を描く。理解されたい、いい絵を描きたいとふだんは思うけれど、死なないために手を動かし、無心に描く。それこそが描くということではないかと気づいた日。
自殺者をゼロにするため真剣に策をとるべきだとつづる日もある。24時間の電話サービスを国や自治体がするべきだと。自らの携帯電話番号を公開し、誰からの相談も無償で受ける「いのっちの電話」を2011年から続けてきた、その経験をもって考えたことだ。
妻や2人の子どもとの肩の力…