広島県教育支援センター「スクールエス」の渡辺美佳センター長(右)と藤原有希さん=2025年8月26日午後3時37分、広島県東広島市八本松南1丁目、遠藤花撮影

 夏休みが終わり、新学期が始まる中、人間関係や学業不振などの悩みで登校を嫌がる子どももいる。そうした子たちとどう向き合えばいいのか。不登校の小中学生を支援する広島県教育支援センター「SCHOOL〝S〟(スクールエス)」(東広島市)の渡辺美佳センター長(51)に話を聞いた。

 ――長期休み明けに不登校が増える理由は

 一つは生活ペースが崩れることです。朝起きて、学校に行ってというのを7月まで続けてきたのに、夏休みで学校を長く離れると、元に戻れるか不安を感じたり時間がかかったりする子がいます。また、人間関係や学習でやりにくさを感じ、うまく解決できないまま夏休みに入った場合、休み明けにまた考えないといけなくなり、しんどさを感じる子もいると思います。

 ――スクールエスの子たちは、どのような子が多いですか

 「困ったらいつでも相談してください」と学校の先生から言ってもらっても、それが苦手な子どもたちが漠然とした不安を抱えてここへ来ているように感じます。

 ――子どもと接する上で気を付けていることは

 その子にとって、安全で安心な居場所でないといけない。そう感じてもらう方法の一つとして、スタッフと子どもたちはお互いを呼ばれたい名前で呼び合っています。ぐいぐい引っ張るわけでも、押すわけでもなく、伴走者として横で見ながらアシストしてあげたいと思っています。もう一つは、同世代や大人とつながる場所にすること。仲直りをしたり、気持ちのコントロールをしたりできる場所を心がけています。

 ――子どもの居場所として工夫している点は

 どの空間が何をする場所なのか見て分かるようにし、安心して過ごせるようにしています。工作をする場所、本を読む場所、ボードゲームがある場所という風に。学校の教室にも良さがあると思いますが、教室に見えないような配置にしています。一日のスケジュールも見て分かるよう、文字や図で示しています。

 ――学校に再び通い始める子もいますか

 います。でも理由は本人もたぶん分からない。見えるようで見えないステップを子どもが踏み、次の場所で活動しようと決めたんだと思います。

 ――最終的な目標は何ですか

 学校に行くことだけが目標ではなく、そのために相談する力や自分をコントロールする力をつけてもらい、人とつながる良さを知るという目標を立てます。学校での問題を解決してあげるのは難しいけれど、傷ついたりうまくいかなかったりしたことから回復する練習はできると思います。

 ――不登校支援で欠かせないことは

 子どもが学びにアクセスできる状態にすることが大事です。ここもその一つで、オンラインもそうです。もう一つ大事なことは、新たな不登校を生み出さないこと。学校に通う子がしんどくならない学級づくりの大切さを、学校関係者には研修を通して伝えています。誰かにSOSを出しながら大人になり、最終的に自分の強みや好きなことを生かしながら自己実現できるよう、バックアップしたいです。

 ――不登校に悩む子や保護者に伝えたいことは

 ひとりで悩まず、相談してほしいです。相談しながら次のステップを踏めるように、学校の先生やスクールエスのスタッフも支えて、チームとなって背中を押したいと思います。

     ◇

 スクールエスで子どもたちと日々接する指導主事の藤原有希さん(38)は、学びの場は学校だけでなく他にもあり、子どもたちの不安は一人ひとり異なると言います。

 小学校の先生をしていたので、「学びイコール教科学習」というイメージがありました。でも、ここに来て、学びは色々な所で起きると気付きました。例えば、探究学習で外に出ると、子どもたちは「こんな所にこんなものがある」「この前は食べ頃だったのに、もう無くなっている」などと、気付きを見せてくれます。

 子どもによって安全や安心の基準も異なります。プログラムに誘っても、なかなか来られない子がいました。「こういう状況だったら来る?」などと話をしていくうちに、参加するようになりました。何が不安で、何が安心材料になるかは個人個人で違うので、一緒に考えるようにしています。

 誰にも頼らず生きることが、ゴールではありません。助けを求めながら、自分のやりたいことをやる自己実現に向かえばいいのです。子どもたちは自分の良さを見つけながら、それをどう自己実現につなげるかを考え、困った時は相談してもらえればと思います。

 学校には養護教諭やスクールカウンセラーなど様々な人がいて、学外にはスクールエスなど色々な施設や人がいます。難しいかもしれないけれど、まずは自分の思いを少しでも誰かに話してみてください。

広島県内の不登校児童生徒数

2019年度 小学校1330人、中学校2631人

2020年度 小学校1638人、中学校2796人

2021年度 小学校2062人、中学校3701人

2022年度 小学校2759人、中学校4678人

2023年度 小学校3380人、中学校5362人

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〈「SCHOOL〝S〟(スクールエス)」〉広島県教育委員会が2022年4月に開設した、フリースクールのような学びの場。不登校の子どもたちに、社会とつながる場をリアルとオンラインの双方で提供している。毎年約200人が利用登録しており、今年度は7月末時点で122人が登録している。

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