大切な人に感謝の手紙を書こう。そんな活動を始めた男性が滋賀県にいる。「ありがとう」を伝えることの大切さを教えてくれた妹は、もういない。6年前の夏、突然で理不尽な別れだった。
「Thank―you Letter Project」を立ち上げたのは渡辺勇さん(46)。家族や恋人、友人、恩師ら大切な人に感謝の手紙を書き、思いを伝える活動だ。
無料で配布するレターセットには、渡辺さんのメッセージが添えられている。「あの日、突然大切な家族の命を奪われました。もっと感謝を伝えたかった。もっと一緒に過ごしたかった。でも、それはもう叶(かな)いません」
2019年7月18日。京都市伏見区の京都アニメーション第1スタジオに、恨みを抱いた男が侵入し、ガソリンをまいて火を付けた。スタジオは全焼し、社員ら36人が亡くなり、32人が重軽傷を負った。
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渡辺さんの妹、美希子さん(当時35)も犠牲となった。京アニの美術監督として、数々の作品に携わった。
心優しい妹だった。両親の家の近くに住む渡辺さんに、ある日、LINEでメッセージが届いた。妹は仕事の関係で県外に住んでいた。
「父さんや母さんの近くに兄さんがいてくれるから私は安心して仕事に集中できます。ありがとう」
妹にはもう会えない。もっと話をしておけばよかった。こちらこそありがとう、と伝えたかった。「今は後悔ばかりが残っています」
悲しい別れは、誰にも突然に訪れるかもしれない。自分のように後悔しないよう、感謝の思いを「いつか」ではなく、「今すぐ」伝えてほしい。そんな願いをプロジェクトに込めた。
思いを伝えるツールには、手紙を選んだ。着想をくれたのは、妹が背景画を手がけた人気アニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」。渡辺さんも大好きな作品で、手紙が物語の重要な要素になっている。
遺作となった劇場版の最終盤…