只見野球部の渡部柊さん、富本結さん、酒井湧司さん(左から)=2025年6月29日午前8時45分、福島県只見町の町下野球場、荒川公治撮影

二刀流でいこう! 【野球×只見線サミット】只見(福島)3人組

 福島・新潟県境を走るJR只見線は、豪雪地帯の「秘境路線」として鉄道ファンに愛される。そんな鉄道のおひざ元にある高校が只見だ。

 列車が走る姿を校舎から見られる只見線は、生徒たちにとって「身近な存在」。しかしローカル線ゆえ、赤字に苦しんでもいる。路線の存続と活性化を探る「全国高校生只見線サミット」に昨年末、只見の野球部員3人がチームを組んで臨んだ。

 中軸を担う右翼手の酒井湧司(ゆうじ)さんと一塁手の渡部柊(しゅう)さんはともに只見町の出身の3年生。只見線は2011年の新潟・福島豪雨の影響で11年間も一部運休が続いた。3年前に全線運転が再開しただけに「大事にしたい」という思いが強い。「只見線は大切な存在」(渡部さん)「只見といったら只見線」(酒井さん)と話す。

3人組みのひとりは沖縄からの山村留学

 もう一人は沖縄出身のマネジャー富本結さん(3年)。22年春の選抜大会に21世紀枠で出場し、強豪私立に善戦した只見の試合をテレビで見た。プレーの姿と帽子のつばや胸の校名が赤色のユニホームが印象に残り、「山村留学」を決めた。「沖縄には鉄道がない。だから気分が上がりました」。

 3人はサミットで「只見線大好き界隈(かいわい)」という企画を提案し、特別賞を受賞した。観光での利用が多いこと、会津若松駅から只見駅まで3時間余りもかかることに着目。只見へ向かう車内で会津地方の知識を高めるクイズを楽しんでもらい、到着後は緑豊かな町内で、特産であるマトン(羊肉)の焼き肉を楽しんでもらおう、という企画だ。会津若松市に買い物に行く際、只見線を利用する富本さんは「クイズなら全世代が楽しめ、乗車時間を生かせる」。

特別賞を受賞した富本結さん、渡部柊さん、酒井湧司さん(左から)=2024年12月、福島県会津若松市、福島県立只見高校提供

 乗車中に赤べこの絵付けを体験したり、「柳津(やないづ)のあわまんじゅう」「会津の地鶏焼き」「ニシンの山椒(さんしょう)漬け」など郷土食を味わってもらったり。車窓を眺めながら楽しんでもらえるよう、「会津地鶏が有名な只見線の駅名は?」といった沿線の食や文化、歴史にまつわるクイズを何種類も用意した。

 「探求授業」を受けたのがきっかけで、サミット出場をめざしてチームを組んだ3人。沿線の知識を深めるため、自治体などがつくる地域紹介の動画を何度も見た。週末や夏休みには町営球場で午後1、2時ごろまで野球を練習した後、午後6時ごろまで企画を練った。発表直前は野球の練習に1時間遅れで参加することも。渡部さんは「3人それぞれ視点が違ったけれど、考えをすり合わせた。野球でもいろいろな視点を大事にしたい」と経験を生かすつもりだ。

 酒井さんはこれを機に「地方の活性化を進めたい」。卒業後は沖縄に戻る予定の富本さんも「只見線存続の活動に関わりたい」と夢を語る。

 野球と只見線の活動に打ち込んだ先の未来を、3人は描き始めている。

只見線サミットで発表する酒井柊さん、富本結さん、渡部湧司さん(左から)=2024年12月、福島県会津若松市、福島県立只見高校提供

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