黄砂のため奥にかすんで見えるフジテレビ本社ビル=2025年3月26日午前、東京都中央区から、恵原弘太郎撮影

記者コラム 「多事奏論」 オピニオン編集部記者・田玉恵美

 先週現場を見に行くと、痕跡はもうすっかり消えていた。

 フジテレビの日枝久・元取締役相談役の自宅の塀に2月、誰かが落書きをした。黄色の字で「停波しろ」と書かれていたという。

 そのニュースを聞いたときは、また極論か、と受け流した。

 だが先月末に公表されたフジ第三者委員会の報告書を読んでいると、私の頭にも本来あってはならない停波という言葉が浮かんだ。放送局の失態は多く見てきたが、そう思ったのは初めてのことだ。

 政治家などが放送の停止を強いることには反対する。それでも報告書は、かつて不祥事のため自主的に放送を一時止めた局があったことを思い出さずにはいられない内容だった。

 銀行など免許事業を担う企業が大きな問題を起こせば、時に業務停止命令などの重い制裁が科される。

 一方、表現の自由と密接にかかわる放送局は自主自律が基本で、政府の介入をなるべく避けられるよう制度が設計されている。

 その特権にあぐらをかいてきたフジに公共の電波を預かる資格があるのか。

 特定のタレントの名をタイトルにして強固な上下関係が生まれやすい「冠番組」の制作をやめるくらいの抜本的な対策を打ち出すのかと思っていたが、フジが示した再発防止策は人権の尊重や社内外との対話などを強調する内容で、通り一遍に見えた。「再生・改革プラン」という名称が空しく響く。

日枝氏の知り合いばかり

 第三者委の報告書でとりわけ驚いたのは、問題が起きて非難を浴びてからもフジの経営陣がまともに対応してこなかったことだ。

 2020年に恋愛リアリティー番組「テラスハウス」の出演者が亡くなった問題や、23年にジャニー喜多川氏の性加害にメディアが沈黙したと大きく批判された問題について、取締役会は議論すらしていなかった。

 昨年末から騒ぎになっていた中居正広氏による社員への性暴力でも、年明けに社長が閉鎖的な会見を行い、広告主が一斉に撤退するという危機的状況になって初めて取締役会が開かれている。

 独立した立場から社内役員に厳しく意見するために選ばれているはずの社外取締役は、いったい何をしていたのだろうか。

 フジの親会社の社外取締役に…

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