Smiley face
写真・図版
記者会見する英国のマーガレット・サッチャー元首相=1991年9月、東京都千代田区

記者コラム「多事奏論」 編集委員・岡崎明子

 かつて英国のサッチャー首相は、就任前と後で「声」を大きく変えたことで知られる。ロンドン・メトロポリタン大のアン・カープ教授の著書「『声』の秘密」によると、権威を得るために、声の周波数を60ヘルツも下げたそうだ。その結果、女性の声の平均と男性の平均のちょうど中間あたりになったという。

 努力の跡は当時の映像からもうかがえる。首相になる前のサッチャー氏の声は柔らかく、優しい。私としてはこちらの方が断然、魅力的に思える。

 当時の英国の有権者も、散々な評価を下した。「不自然に異様に低く、人を見下す響きがある」「犬が死んだような口調で、投票する気にならない」と揶揄(やゆ)したという。パワーを得るための努力が、逆に攻撃材料になってしまった。では、日本ではどうなのだろう。

 政治学を専門とする東大の鹿毛利枝子教授らがこんな論文を出している(https://doi.org/10.1017/S1468109922000354)。20~50歳の414人の有権者に声の高さが異なる架空の女性候補のスピーチを聞いてもらい、投票したいかどうかを尋ねた。

 一般的に声が高い人は低い人に比べ「真実味や力強さに欠ける」との印象を持たれるという。そのため欧米では、声の低い政治家や候補を好ましいと感じ、信頼を置くという研究が多い。サッチャー首相だけでなく、米国のヒラリー・クリントン大統領候補もドイツのメルケル首相も、声を低くしたことが知られる。

 鹿毛さんの実験によると、日本の有権者は、欧米ほど声の高低に敏感ではなかったという。

 「これは、私も予想外の結果でした」

 ところが男女別に分析すると、興味深い傾向が明らかとなった。女性有権者は女性候補の声の高低にあまり影響されない一方で、男性有権者は低い声の女性候補を好んだという。

 「推測ですが、女性同士はふ…

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