1978年12月、長野市に「珈琲館 珈香(こか)」がオープンした。
19歳の時から45年間、ずっと店に立ち続けてきたのが久保田富夫さん(64)だ。
店内にはピンク色のダイヤル式電話があり、コーヒーは注文が入ってから一杯ずつ豆をひいてサイホン式でいれる。
こだわりの店は、昭和、平成、令和と時代を超えて愛されてきた。
歓楽街にあった長屋を改装してオープンさせた店で、当初は母と一緒に切り盛りしていた。
「本当は板前になるつもりだったんだけど、喫茶店を手伝うことになってね。まもなく自分がメインになって、母が他界してからは1人でやってきたんだ」
いち早くクレープをメニューに加えたり、モーニングやランチを提供したりと新しいことに挑戦。
トーストのパンは自らパン切り包丁でスライスしていたが、客の期待に応えていたらどんどん厚切りに。
料理も次々と増えて、常連の名を冠したメニューも誕生した。
昼は喫茶店で夜はスナックという店が多い中、喫茶店として朝7時半から夜8時までの営業を貫いた。
みかじめ料を求められても、かたくなに断り続けた。
店の前に高級外車をズラッと路上駐車されて、店に入りにくい状態にされたこともあった。
「今思えば、ほんとに昭和だよね。お客さんもよく入ってきてくれたよ」
俺はこの街で生きていくんだ、この店を守っていくんだ。
そんな気持ちでカウンターに立ち続けてきた。
思いがけず、妻に言われたことは
2年前、テレビの取材に「最低でも50年はやりたいな」と語っていた富夫さん。
目標まであと5年半となった今年7月下旬の夜、妻・美恵子さんからこう切り出された。
「最後に私が望むプレゼント…