「ママ、おかえり」。家に帰ると、小さな娘と夫が迎えてくれる。一緒にごはんを食べ、テレビを見ながらたわいもない会話を交わす。そうして、今日も穏やかに眠りにつく――。
「デブ! ブス!」。そんなののしりや暴力を肉親から受け続けてきた女性にとって、今ある日常の幸せは、数年前まで「テレビの向こう側の出来事」だった。
北陸地方にある女性の実家では、ものごころついた頃から、家族のいさかいが絶えなかった。
医療従事者の父と、薬剤師の母は不仲で、常にいがみ合っていた。5歳上の長姉と、3歳上の次姉がいたが、とくに次姉は母親にかまってもらおうとしてか、妹である女性を目の敵にしているようだった。
4歳の頃、次姉に言われたことが記憶に残る。家族で女性だけ血液型が異なるのをからかわれた。「もしみんな事故にあったら、(輸血ができないで)あんた一人で死ぬね」
父親は長姉の勉強と、趣味の競輪しか頭になかった。週末になると女性は、行きたくもない競輪場に連れて行かれた。次姉のいじめに気づいていたはずなのに、母親は、きまって末っ子の女性をどなった。
幼稚園児だった頃、女性は母親に尋ねたことがある。「どうしてお姉ちゃんが悪いのに、私が怒られるの?」。すると、こう返ってきた。「お姉ちゃんを怒ると面倒くさいから、聞き分けの良いあなたを怒る」
そこで、女性は自分に「約束」をした。
〈お母さんに好かれるために、聞き分けの良い私が我慢しなくちゃいけないんだ……〉
響きわたる怒声、ブランド品を買いあさる母
長姉が第1志望の高校に進学…