安田菜津紀さんが広河隆一氏からの性被害を告白したメディアNPO Dialogue for Peopleのサイト。「この文章を書くまでに、長い、長い時間がかかりました」という一文から始まる=同サイトから

 メディアNPO Dialogue for People副代表でフォトジャーナリストの安田菜津紀さんが2月27日、同団体のサイトで、フォトジャーナリストの広河隆一氏から性被害を受けたと明らかにした。安田さんは朝日新聞の取材に「広河氏は自分がしたことのどこに本質的な問題があったのかまったく向き合っていない。いつかは私の名前で声を上げなければと思っていた」と訴えた。

  • 性被害から約40年、突然よみがえった記憶 救われた相談員の一言

 安田さんはサイトで、フォトジャーナリストを目指し、ボランティアとして広河氏を手伝っていた学生時代に被害を受けた、と明かした。

 広河氏をめぐっては、広河氏が編集長を務めた報道写真誌「DAYS JAPAN」の発行元の検証委員会が2019年、広河氏が04~17年に社員やボランティアの女性らに性交の強要や裸の写真撮影などをしたと認定している。安田さんは検証委の調査に対して、被害を申告していたという。

 被害を公表した理由として、広河氏から性暴力を受けたとする女性の証言を載せた文春オンラインの19年の記事をめぐり、広河氏が名誉を毀損(きそん)されたとして文芸春秋に賠償などを求めた訴訟で、東京地裁が1月、広河氏の主張を一部認める判決を出したことを挙げた。

 判決は、女性が性行為を強いられたとする記事の内容については「真実だと信じる相当の理由がある」と認めつつ、見出しに含まれる「レイプ」の文言が、暴行や脅迫を伴う強制性交等罪(当時)にあたる行為を広河氏がしたという印象を与えると判断。文芸春秋に慰謝料などの支払いを命じた。

被害に遭った生身の人間がここにいる

 安田さんはサイトで、判決を知り「私の心の奥底にあった何かが一気に冷え込み、凍りつきました」とした上で、「なぜなら私自身が過去、広河氏による被害を受けたからです。それを初めて、私自身の名前で綴ります」と記した。自身の被害を公表した理由について「判決が出されたことがもたらす影響を危惧したから」とした。

 サイトでは、訴訟の対象になった記事に先立って発行された、広河氏の性暴力を告発する週刊文春の記事の中で、匿名で取材に応じた7人の女性のうちの1人が自身であることも、初めて明かした。

 被害を受けた当時、「フォトジャーナリストを夢見る、希望にあふれた学生」だったという安田さん。サバイバー(性被害から生き抜いた人)として生きることの苦しさを痛感するばかりだったとして、「今もふいに、性被害に関する何かが目に飛び込んできたとき、パニックに陥ったり、心も体も固まって、冷静な判断ができなくなってしまうことがあります。とりわけ、広河氏本人に関する文言には」とつづった。

社会は半歩ずつ、進歩している

 安田さんは朝日新聞の取材に「広河氏は裁判で勝訴した部分を強調する発信を(SNSなどで)しており、記事そのものの信頼性もないかのように伝わってしまうことを危惧した。声を上げた女性が二度三度と踏みにじられることがあってはならない。被害に遭った生身の人間がここにいるということを示さなければと思った」と話した。

 サイトに掲載後、「サバイバーだとは思いませんでした」というメッセージが寄せられたという。安田さんは「その人たちのことを責めたいということではない」としつつ、「社会の中に『被害者とはこういうもの』という思い込みがある」と指摘。一方で「性暴力への理解がいまより乏しかった6、7年前にこういう発信をしていたらもっと否定的な反応があったと思う。多くの方の声の積み重ねで、社会は半歩ずつだが前進していると思った」と語る。

 安田さんが性被害を告白したことについて、朝日新聞は広河氏に見解を尋ねたが、広河氏は文書で、「文春の記事の『レイプ』というタイトルについて損害賠償が認められたことは正当だと考えます。文春の記事はタイトルのみではなく、記事内容も多くの事実誤認を含むものでしたので、控訴審で争っていく予定です」とコメントした。

共有
Exit mobile version