周回コースを走る「波賀森林鉄道」の機関車=2024年4月20日、兵庫県宍粟市波賀町上野、雨宮徹撮影
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 主に昭和30年代に木材を運んで隆盛を誇った兵庫県宍粟市波賀町の森林鉄道(林鉄)を「復活」させるプロジェクトが進み、昨夏にできた周回コースの大幅延長に向けた協力金の募集が始まった。目標が達成されれば、今秋にも延長される見込みだ。

 波賀町内の山間部の国有林では良質な木材がとれ、大正時代にこれを運ぶため林鉄の建設が始まった。1924(大正13)年にできた音水地区から上野地区を南北に結ぶ延長約24キロを幹線にした。そこから路線が枝分かれし、昭和30年代には総延長が40キロ超に達した。だが脱線があったり、トラック輸送が広がったりしたため、1968(昭和43)年に半世紀近い歴史が終わったという。

 波賀町の地元住民で作る「波賀元気づくりネットワーク協議会」が2016年から「復活」を期して林鉄の遺構を調べたり、林鉄で使われたものとよく似た中古の機関車などを譲り受けたりしてきた。機関車は、かつて富山県の北アルプス・立山の砂防事業で専用軌道を走っていたものを再利用している。

 昨夏には同町上野のリゾート施設「フォレストステーション波賀」に、1周108メートルの楕円(だえん)の周回コースを完成させた。「波賀森林鉄道」という名を冠して客車をつないで試乗会を開き、地域の子どもや高齢者を乗せて楽しませている。

 協議会は、林鉄の幹線ができて100年の記念になる今年、リゾート施設内にある作業道を利用して、周回コースの線路をさらに約570メートル延長する計画を立てた。実現には約5千万円が必要になる。

 そこで協力金を集めるため、4月から枕木1本(5千円)や、1メートル分の線路(5万円)を買ってもらう取り組みを始めた。6月ごろにはクラウドファンディングも始める。地元商工会からの補助も充てながら、10月中の完成を目指す。

 協力金の募集に応じてくれた人には、周回コース内に将来建設を予定している「駅舎」に名前入りの記念プレートを置くなど特典を用意している。詳しくは、公式インスタグラム(https://www.instagram.com/re.ntetsu19680715_nakaonzui/)に記されている。

 協議会の松本貞人会長(63)は、「楽しみにしている子どもたちや、林鉄が走っていた当時を知るお年寄りを喜ばせたい」と話す。周回コースの延長作業は今月から始める予定で、協議会は手伝ってくれるボランティアも募っている。(雨宮徹)

 「波賀元気づくりネットワーク協議会」の取り組みは昨年度、重要な産業遺産の調査・保存に功労があった個人や団体を表彰する産業遺産学会(旧称・産業考古学会)の「功労者表彰」を受けた。

 同学会理事長で鉄道の歴史に詳しい小西伸彦さんは今年3月、宍粟市内で講演した。「新しい線路を敷き、そこに立山のトロッコを使い、それを地域住民の力でやることは、すごいことだと思う。森林鉄道の歴史を踏まえて活動を続けてほしい。学会としても応援したい」と話した。

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