批評家で映画史研究者で跡見学園女子大准教授の渡邉大輔さんが5月に中央公論新社から出した「ジブリの戦後 国民的スタジオの軌跡と想像力」を読みました。戦後80年、ちょうどその半分の歴史を持つスタジオジブリは戦後日本の「大きな物語」の完成と解体・変容を最も鮮やかに体現している、というのがその主張。宮崎駿さんについて言えばそれは「マルクス主義=左翼思想」から「日常の小さな物語」&「アニミズム」への転回だった、とまとめているのですが、そう単純ではなくてもっと細かく見ていくべきです。そして渡邉さんが「ご都合主義」と片づけてしまった宮崎アニメの結末の作り方に、実は一番大事な戦後の「大きな物語」が入っています。「戦後民主主義」ってヤツです。そこに気づいてほしかった。今回はそういうお話。
本書で引用している通り、1982年に始めたマンガ「風の谷のナウシカ」を94年に完結させた時のインタビューで宮崎さんは言ってます。「『ナウシカ』を終わらせようという時期に、ある人間にとっては転向と見えるのじゃないかというような考え方を僕はしました。マルクス主義ははっきり捨てましたからね。捨てざるを得なかったというか、これは間違いだ。唯物史観も間違いだ」(p.26/宮崎駿「出発点 1979~1996」ではp.529)
渡邉さんは97年の「もののけ姫」以降に「宮崎の発言や作品が大きく転回を遂げたということも、何度も指摘されてきた」(p.27)と書いた上で、2001年の「千と千尋の神隠し」や08年の「崖の上のポニョ」で「それまでに見られたような、大上段に構えた理念や思想性を後退させ、代わりに、宮崎のきわめて個人的な動機と身の回りに実際にある題材から作品を着想していくようになるのだ」(p.27)とします。
アニミズムについては「宮崎はすでに八〇年代前半の『ナウシカ』の時点で(中略)アニミズム的な視点を獲得して」(p.36)おり、それには「近代的な人間中心主義への批判」と「二項対立図式の相対化」という思想的意義があって、アニミズムの現れる該当作品としては「『もののけ姫』以降の諸作品(先駆として『ナウシカ』『トトロ』)」(p.34)と書いています。
論旨に漏れとズレがあります。
2000年代以降に「大きな…